だが、コロナ禍での開催ということで観客はマスク着用が義務づけられ、声援を飛ばすこともNG。広い日本武道館は静寂に包まれ、勝者・中野たむは「髪なんて切らなくていい」と感情を露わにした。
たくさんの観客が見守る中で、リング上での2人の会話だけが武道館に響きわたる、という異様な光景。もし、ここでジュリアが泣き崩れてしまったりしたら、なんとも後味の悪いエンディングになってしまっていただろうが「恥かかせんなよ」と切り返すと、美容師にバリカンを手渡し、髪の毛を刈ってもらった。残酷なはずの髪切りの儀式が、爽やかで感動的なものに昇華した瞬間……戦前、あれだけ批判された髪切りマッチが万雷の拍手に包まれる大絶賛のベストバウトとなった。
「あれは本当に『今』だからこそだと思いますよ。昔のように客席から泣き声や悲鳴が響くような状況だったら、さすがに私もその雰囲気にのまれていたかもしれない。コロナ禍で客席の『生の声』がわからなかったから、なんとかなったのかも……そういう意味では令和ならではの髪切りだったのかなって。
そりゃ、悔しかったですよ。(ベルトも髪の毛も)すべて失ったわけですから。ただ、あのときは『試合がやれてよかったな』『ちゃんと終わってよかったな』という気持ちのほうが大きかったかな」
だが、ある意味、髪切りマッチの「本番」はここからである。(後編へ続く)
【後編はこちら】髪切りマッチで丸坊主に…スターダム・ジュリアが女子プロレスを語る「ドロドロの昼ドラみたい」