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UPDATE|2021/08/20

西島秀俊×鬼才監督・濱口竜介が語る、カンヌ席巻『ドライブ・マイ・カー』が3時間の長尺でも“短い”ワケ

濱口竜介×西島秀俊 撮影/西邑泰和



西島 濱口監督の作品は、最初の『PASSION』はもちろん、『寝ても覚めても』も本当に衝撃的で。すさまじい才能が日本でも生まれたんだってことに、イチ映画ファンとして純粋に興奮していたんです。で、いざご一緒してみたら、渡されるテキストの量にしても、そこにかける時間にしても、あるゆることがケタ違い。もともと頭の回転の速い人がこれだけの労力と時間をかけるのだから、それは凄いものができるはずだということを、身をもって感じましたよね。ご本人からすると、こんなことを隣で話されるのは、きっと居心地が悪いと思いますけど(笑)。

――撮影現場では、劇中劇の稽古シーンにも描かれている、独特な“本読み”も実際に行われていたとか。西島さんのおっしゃる“ケタ違い”というのは、そういったあたりからも?

西島 一般的な本読みというものは、それぞれの役者さんがお互いの距離感を測ったり、確かめあったりするためにやるものですが、濱口組のそれはまったく違う。理屈としては、感情を込めずにひたすら読み続けることで、相手のセリフも含めたぜんぶが自然と頭に入るようになる。本番でそこに感情がこもると、それまでにはなかった新鮮な驚きや発見が得られる……ってことだと思うんですが、なんて言うか、それ以上に不思議な感動があるんです。よく知っているはずの人からまったく違う一面を急に見せられるような、隠されたものが目の前で明らかになるような、あれはもう、ちょっとした“魔法”でしたね。

濱口 その感覚は役者さん同士で最も強く感じるものと思いますけど、役者さんから、その人自身とはまた別の“得体の知れない何か”が現れるというのが、演技というものの面白さでもある。そういう意味でも、家福という役柄を西島さんに演じてもらえたのは、本当によかったと思っています。僕のなかでの西島さんは、“たたずむ力”のある人。存在感というよりは、その存在で「この人は、ここにいるんだ」って、ただ感じさせてくれる。同世代を見渡しても、そういう役者さんは決して多くはないですしね。

――ところで、劇中でもある意味、主役級の存在感を放っているのが、家福の愛車である、真っ赤な『SAAB 900』。とりわけ、エンジン音の小気味よさはすごく印象的でした。

濱口 それは『寝ても覚めても』でも整音を担当してくださっている野村(みき)さんというミキサーの方のおかげです。もちろん、現場の録音が素晴らしかったというのもありますが、セリフや音楽と、その他のノイズとのバランスは、彼女の手によるところが大きい。なかでも車はいちばんの中心にあるもの。僕としても、すごく心地よい音にしていただいたなと思っています。


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