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UPDATE|2015/06/18

『A.Y.M.ROCKS』で見せた武藤彩未の「進化」と「深化」

武藤彩未には「記念日」がふたつ、ある。

 ひとつは誕生日の4月29日。毎年、コンサートが開催され、彼女にとって、ある意味、この日が1年の起点となっている。

 もうひとつは6月10日。「610(ムトー)の日」という語呂合わせで、勝手にメモリアル認定されている日なのだが、昨年は初挑戦となるアコースティックライブを開催。そのクオリティーの高さは集まったファンの度肝を抜き、本人にとっても「音楽を楽しむ」ということを体感できた有意義なイベントとなった(ちなみに今年の秋にも、この流れを汲んだライブが開催されることが6月10日のステージ上で、本人の口から発表された)。

 4月29日に大きなライブを開き、まだ余韻も残っている6月10日に実験的なイベントを行なう。この流れはとてもいい。ひと皮むけて、実際に年齢もひとつ重ねたタイミングで新しいことにトライするわけで、大きな変化が起こるのは必至なのだ。

 今年のタイトルは『A.Y.M.ROCKS』。これはイベント開催日を2日間に延ばし、6月9日にもライブを行なうことになったため、6月9日=ロックで、生バンドをバックにロックテイストなステージを魅せよう、というコンセプトだ。

 僕は残念ながら、6月9日のライブを見ることができなかったのだが、会場に足を運んだ人たちから大絶賛の声が続々と飛びこんできた。

 しまった!

 過去の彼女のライブを振り返れば、前回のライブを下回る内容になった試しがない。つまり、武藤彩未史上最大キャパとなった渋谷公会堂でのコンサートの直後に行なわれた今回のライブは、たとえライブハウスが会場であっても、渋公以上の熱量がステージから発されるのは、もう確定事項だったのだ。

 実は80年代アイドルのカバーというのは、2年前に武藤彩未のソロデビュープロジェクトが立ちあがった当初のメインコンテンツだった。

 ソロアイドル黄金時代の楽曲を完全再現することで、グループアイドル全盛期に「ひとりで歌うこと」の意味をしっかりと示してみせたわけだが、その段階ですでに完成度はかなりのものだった。

 どうして、まだ本人が産まれていない時代の楽曲をこんなに愛し、歌いこなせるのか? それは父親が競馬の調教師をやっている関係上、幼いころを厩舎に隣接した家で過ごし、音に敏感な馬への影響を考慮して、テレビすら見られない、という特殊な環境で育ったからだ。

 彼女の耳に入ってくる音楽といえば、両親がチョイスしたカーステレオから流れてくる楽曲ばかり。それこそが80年代のアイドルソングだった。けっして話題作りのための付け焼刃ではなく、幼いころから耳に染みついたフェイバリットソングだからこそ、自然に歌いこなせることができたのだ。

 今回は「ロック」というテーマもあるため、すべての楽曲をこの日限りのスペシャルなアレンジで披露。あぁ、19歳になったんだな、と感じられたのは、工藤静香や中森明菜のカバーをしっかりと歌いこなしていたこと。

 2年前に中森明菜の『少女A』をカバーしたときには「じれったい、じれったい……って言われても、よく意味がわからなくて、私のほうがじれったい」と語っていた武藤彩未。明らかに当時は背伸びをして歌っていたわけだが、この日は本当に自然に、無理なく表現できていた。もちろん、歌唱力や表現力がアップしたことも関係しているのだろうが、本当の意味で「いい歌い手」になるには、ある程度の時間は必要になってくるんだな、と痛感させられた。


 白眉だったのは、松田聖子の『BITTER SWEET LOLIPOPS』。この楽曲は83年にリリースされた松田聖子のアルバム『Canary』のA面1曲目に収録されている。当時、大人路線にスライドしつつあった彼女(すでに21歳だった)の「アイドルのかわいらしさ」をたっぷりと残した佳曲で、ファンのあいだでは評価が高い。

 とはいえ、シングルカットされていないので、一般的な知名度は極めて低い。事前に予習してほしかったのは、おそらく、この曲のことで、それだけ武藤彩未がこだわりまくった選曲だったことがわかる。

 そして、歌いだすと、もはやそれは松田聖子のカバーではなく、武藤彩未の楽曲そのものだった。しっかりと歌詞を理解して歌っているようで、メロディーだけでなく、歌詞をリンクするような仕草を見せながら、客席にパフォーマンスを届けてくれた。

 2年前のカバーでは、まるで本人が憑依したかのような「完コピ」ぶりが完成度の高さに直結していたが、生バンドをバックに、独自のアレンジで歌うことで、どんどん武藤彩未の「色」に染められていく。あえて、このタイミングでカバー曲をたっぷりと披露することで、彼女の成長ぶりが浮き彫りになったようだ。

 武藤彩未は「進化」しながら、さらに「深化」している。

 欲をいえば、もっともっとライブの数を増やしてほしい。やっぱり、彼女はステージで歌って、踊ってナンボの存在。あの輝きを数カ月に1回しか発せられない、というのは彼女にとっても、ファンにとっても悲劇でしかない。

 そんな状況を打破するかのように発表されたのが夏のライブハウスツアー。そのタイトルは『TRAVELING ALONE』。2年前の秋に、はじめて敢行したライブハウスツアーと、まったく同じツアータイトルを冠してきた。

 そのツアーでは、まだオリジナル曲が少なかったため、会場によって「今日は聖子ちゃん」「明日はキョンキョン」といったように、ひとりのアイドルに的を絞って、がっつりとカバー曲を披露する、という構成になっていた。まさに今回の『MUTOな夜』の原型ともいえるライブだった。

 ツアータイトルが同じだけでなく、使用する会場も2年前とほぼ同じ(7月25日の下北沢ガーデンのみ、昨年の夏ツアーで使用)。いま一度、原点回帰しよう、という意気込みが伝わってくる。

 事実、今では当たり前になった生バンドとの競演もなく、たったひとりでステージに立つ、という。

 バンドと一緒にパフォーマンスすることで、ライブの本当の楽しさに目覚めた武藤彩未。おそらく、このスタイルを続けていったほうが楽しいし、クオリティーも間違いなく保たれる。


 しかし、武藤彩未はあくまでも「ソロアイドル」なのである。

 なにからなにまで「ひとり」でやることで、グループアイドルとの差別化もできた。それは本当に大変だけれども、すべての観客の視線が彼女だけに集中する、というソロアイドルならではの喜びも味わえた。

 そもそも、今回のライブに関しても、基本的には「ひとり」でやっている。客入れ時のBGMにはじまり、開演前の影アナ、そして簡易的なものではあるがステージ上の装飾まで担当した。ならば、ステージ上も「ひとり」で考えるのは、当然の帰着でもある。

 せっかく渋谷公会堂までステップアップできたのに、ふたたび2年前と同じクラスの会場に戻ることを「後退」と受け取る人もいるかもしれない。だが、これは次なるジャンプアップのために、どうしても必要な確認作業。三歩進んで二歩下がることで、見つかることだってきっとある。

 この日もバンドのメンバー紹介のラストで、彼女は「ボーカル、武藤彩未!」と絶叫した。10代最後の貴重な夏をライブハウスツアーに捧げる武藤彩未は、ボーカルしか立っていないステージですべての責任を背負い、すべての賞賛を浴する。そんな光景を、ぜひとも多くの人たちに目撃してもらいたい。そこにはソロアイドルの可能性と、現時点での最高峰があるのだから。

撮影/笹森賢一

<武藤彩未ライブハウスツアー2015「TRAVELING ALONE」開催>

●2015/7/18(土) 西川口LIVE HOUSE Hearts
OPEN17:30/START18:00

●2015/7/20(月祝) 新横浜NEW SIDE BEACH!!
OPEN17:30/START18:00

●2015/7/25(土) 下北沢GARDEN
OPEN17:30/START18:00

●2015/7/26(日) 稲毛K&rsquo:S DREAM
OPEN12:30/START13:00
スタンディング:¥3,000(税込/ドリンク代別/未就学児入場不可)
※お1人様4枚までお申込可

■オフィシャルサイト先行受付決定!!
受付期間:2015/6/13(土)12:00~2015/6/21(日)23:59
受付URL:http://w.pia.jp/s/muto15of/
【お問合せ】ディスクガレージ 050-5533-0888(平日/12:00~19:00)
 
小島和宏 1968年生まれ。週刊プロレス記者として8年間活躍し、現在はフリーライター&編集者として、エンタメ分野を中心に活躍。近年はももクロやAKB48などのアイドルレポートでファンの支持を得ている。

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