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UPDATE|2015/07/29

武藤彩未7.18西川口-7.25下北沢ライブレポート ソロアイドルの〝未完成〟を見逃すな

武藤彩未、真夏のライブハウスツアー『TRAVELING ALONE』は7月18日に西川口・Heartsにて開幕した。

 実は2年前に開催された同名のツアーのオープニングもこのライブハウスなら、昨年のSUMMER TRIAL LIVE 『20262701』もやっぱりこの会場で幕開け(しかも、3年連続で開場前に雨が降る、という偶然!)。彼女にとって、新たな一歩を踏み出すための場所として定着しつつある。

 今回、あえて2年前と同名のツアーを開催し、ほぼ同じ会場を巡ることになったのは、まさに「原点回帰」がテーマ。昨年来、生バンドをバックにつけてのライブを繰り広げてきたが、このツアーにはバンドがつかない。ソロアイドルとして活動を開始したときに意識していた「なにからなにまで、たったひとりでやる」に、いま一度、トライしてみよう、というわけである。

 開演10分前には『AYM RADIO』なる番組が場内に流れ出す。これは事前に本人が告知をし、リクエストも集めていた企画なのだが、てっきり客入れ時のBGMとして流されるものかと思っていたら、ほぼほぼ観客が入りきったところでのスタート。もう、ここからイベントは本格的に始まっている、ということか。

 『AYM RADIO』は過去のライブ音源から、リクエストに応えて2曲をお届けする約10分間のプログラム。そのエンディングで「盛りあがる準備はできてますか?」と観客を煽ると、そのままライブ本編がスタート。やはり、このラジオを含めて、たったひとりでお送りする「武藤彩未SHOW」になっていたようだ。

 ステージ上でも、当然、ひとりである。ステージが暗転しているあいだに水分を補給したり、ちょっとした早着替え(帽子をつけて、上着を羽織るだけだが)まで、ひとりでこなしてみせる。ただ、衣装の襟の部分がキラキラ光る素材だったので、完全に暗転しているのに、その部分だけは輝いており、間違いなく、観客の目には「武藤彩未」が映っていた。だから、ステージがまったくの無人状態になることは1秒たりともなかったのだ。

 これこそが、2年以上に渡って「たったひとりでやる」ことにこだわっていた成果である。最初から答えがあったわけではなく、試行錯誤を繰り返しながら、自分の力でここまでたどり着いたことに意味があるし、それを暗中模索のスタート点である西川口で披露できたことも、また意義深い。

 セットリストは最初から盛りあがるナンバーがてんこ盛り、という構成。最初の3曲を歌い終えると、一応、MCコーナーがあるのだが、ここは簡単な挨拶程度で終えて、すぐに次のブロックへと移行。かなり彼女には負荷がかかるが、いかにも夏らしい疾走感あふれる構成に、会場の盛りあがりは最高潮に達した。

 ただ、ちょっとだけ気になることがあった。久しぶりに生バンドの演奏ではないライブに臨んだからか、時折、歌声がほんの少しだけ演奏に追いつかない部分があったのだ(歌声は安定しまくっているのだが……ちなみにオケは生バンドに近い音になっていた)。

 生バンドを経験したことで、1ランクも2ランクもレベルアップし、この日も満足度の高いパフォーマンスを披露してくれたが、久々の「バンドなし」に対応しきれなかった、という、まさかの落とし穴。

 こればっかりは慣れが必要になってくる。4月に渋谷公会堂でのコンサートを成功させたあと、さらに大きな勝負に出ないことに、いささかの苛立ちを感じていたのだが、なるほど、さまざまな勘を取り戻すためにも、夏のライブハウスツアーは必要不可欠だったのだ。

 もう一点、アンコールで『彩りの夏』を歌ったとき、一部、歌詞がとんでしまった。

 すかさず「もう1回、やっていいですか?」と再トライ。この流れは4月の渋谷公会堂から続いていて、観客からの「おっ、お約束の!」という声が飛んだ。

 完璧主義者の彼女だけに、ライブでミスった部分は、その日のうちにやり直して、しっかりと補完しておきたいのだろうし、それが最高のファンサービスにつながっているのも事実。だが、裏を返せば、そこに至るまでのパフォーマンスはパーフェクトではなかった、ということになる。

 しかも、この日はわざわざ歌い直したのに、今度は違う部分の歌詞がとんでしまう、というアクシデント。本人もステージ上で「やらないほうがよかったですね」と反省していたが「すべてをひとりでこなす」に加えて「久々に生バンドなしで歌う」というミッションが加わって、無意識のうちに頭の中がパンクしてしまったのかもしれない。

 ちょっと心配になって(2年ほど彼女を追い続けているが、ライブに関して不安を覚えたのは、今回がはじめてである)、7月25日の下北沢・GARDENでのライブにも足を運んだのだが、不安点はしっかりとクリアされていた。短期間に複数のステージをこなすことで問題点は消える。観客との距離が近いライブハウスだから、なおさら効果的だったのだろう。武藤彩未も「今日はライブにのめりこみすぎてしまって、どこか冷静さを欠いてしまった気がします。本当に支えてくれたお客さんに感謝です」と語る。常にNEXTを見据えている彼女ならではの感想だが、夏本番に向けて、いい感じに仕上がってきている。

 8月1日、2日には「TOKYO IDOL FESTIVAL」へ出演する。さくら学院時代に参加経験はあるものの、ソロ転向後は初出場となる。本来だったら、ソロデビューを果たした直後の昨年、出場すべきだったのだろうが、経験に経験を重ね、満を持しての参加となった。

 アイドル通に言わせると「武藤彩未は完成しすぎているから面白くない」ということになるようだが、今回のライブハウスツアーでも苦戦したように、まだまだ完成形ではない。もちろん、かなり高いレベルをキープしてはいるが、ソロとして初のTIFのステージだけに、なにが起こるかわからない。

 せっかくTIFの会場にいるのなら、グループアイドル全盛期に、あえてソロアイドルという荒野を開拓している武藤彩未の「今の姿」を目に焼きつけてもらいたいし、もし、そこで大いなる可能性を感じることができたら10月4日に開催される、しっとりと歌だけで聴かせる『AYM Ba11ads』にも足を運んでいただきたい。常にアップデートされる、ソロアイドルの「進化系」がそこにはあるはずだ。

武藤彩未『I-POP』

 
小島和宏 1968年生まれ。週刊プロレス記者として8年間活躍し、現在はフリーライター&編集者として、エンタメ分野を中心に活躍。近年はももクロやAKB48などのアイドルレポートでファンの支持を得ている。

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