結果、落選。上谷はアオーレ長岡の控室で、ただただ号泣した。
「そのときは未成年だったので親が付き添ってくれていたんですけど、帰りの新幹線でもずっと慰めてくれて。全面的に応援してくれていたんですよ。でも、あのときは親も本当に困ったと思います。大学受験もあきらめて、すべてを賭けてきたオーディションで落ちちゃったんですからね」
その後、上谷は欅坂46(現・櫻坂46)などのオーディションを受け続けるが、結果はついてこなかった。そして、このNGT48のオーディションに落ちた日のことを「人生のどん底」とまで言い切る。それはそこからの人生で浮上できたからこそ言えるのでもあるが、驚いたことに取材中、当時のことを鮮明に思い出してしまった上谷は「あぁ、ダメだ。感極まっちゃって……」と涙を落としたのだ。
そこまで強い想いを残した会場に、チャンピオンとして戻り、メインイベントを務める。なんともドラマティックな話であるが、これはすべて偶然のこと。上谷がアオーレ長岡でこんな経験をしてきたことをスターダムのスタッフは誰も知らない。本人ですら大会ポスターが刷り上がってから思い出したのだから、他人が知っているはずがないのだ。本当に偶然、上谷がポスターの主役になり、メインイベントを任された。メインに関してはファン投票で決まったので、民意によって選ばれたことになる。
過去を受け止めて、明るい未来に変える。
上谷沙弥は人生最大の黒歴史と涙ながらに向き合っていた。
試合当日。約7年ぶりにアオーレ長岡にやってきた上谷沙弥は「7年前、Maxとき315号に乗ってやってきたときのことを思い出しました! 今日、試合をやるアリーナの隣の建物でオーディションをやって、その楽屋で泣き崩れたんですよ」と笑顔で語った。
もう感極まって泣くようなことはない。いや、そういう感情もあったのだろうが、それ以上にメインイベントの重責に緊張していたのだ。いままでの彼女だったら「どうしよう、どうしよう……」となってしまうところだが、緊張の面持ちは浮かべつつも、じつに落ち着いたものだった。