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UPDATE|2016/02/10

サウナ+アイドル=パラダイス!? 健康ランドで音の悦楽に溺れる!

健全な男子にとって、「健康ランド」と「アイドル現場」は長きにわたって2大悦楽スポットとされてきた。いや、「銭湯女子」「女ヲタ」といった存在もクローズアップされている昨今のこと。男女問わず、「真のこころの豊かさ」を追求する者にとっての最終漂流地になっていると言ったほうが正確か。

 去る1月30日、この2つの欲望を一度に叶えてくれる夢のようなイベントが開催された。NPO法人 YUKAI主催「東京天然温泉『湯会』」がそれだ。サウナで汗をたっぷり流す。乾いた身体にビールを注ぎ込む。そしてアイドルの美声に酔いしれる……。考えただけで大コーフンもののパラダイス! よもや健康ランドでアイドルのライブを観ることができるなんて思いもしなかった! まさにコペルニクス的転回である。

 今回出演したアイドルはEspecia、lyrical school、Negicco。実はこの3グループ、かつては「ネギリリぺシア」として合同ライブを行ったこともある。それぞれ音楽性の高さに定評があり、なおかつ互いに気心の知れた3グループなのだ。その他、「湯けむりDJs」としてDJCARP、J.A.G.U.A.R.、トーニャハーディング、Nachuも参戦した。料金は温泉・サウナ入りたい放題で3,900円。会場となった『東京天然温泉 古代の湯』(東京・新小岩)の通常料金が2,634円なので、これはかなりお得な設定といえる。

すさまじい盛り上がり。宴会場の外にある廊下からも、大きな歓声が上がる。

 案の定、同イベントには舌の肥えたアイドル&サウナファンが殺到し、前売り段階で600枚のチケットはソールドアウトしてしまった。「温泉復古の大号令」を提唱する主催のYUKAIは、昨年12月にも長野・渋温泉で温泉と音楽のミクスチャーイベント『音泉温楽』を大盛況で終わらせたばかり。アイドルと温泉・サウナの親和性は、もはや隠しようがないほど日本人の間で高まっている。

 当日、JR新小岩駅前から送迎バスに乗り込むと、「ずいぶん今日は人がいっぱいだねぇ。何かあるのかい?」と地元のおばあさんに声をかけられた。たしかに10分置きに出発するバスの中は満員状態。フジロックやサマソニの現場付近を連想させる、異様な熱気が充満している。だが、驚くのはまだ早かった。目的の『東京天然温泉 古代の湯』4階に到着すると、果たしてそこには他のアイドル現場では見たこともないような光景が広がっていたのだ……!

 350畳もある巨大フロア(大宴会場・華の間)に群がる人の海。DJにより爆音で鳴らされるアイドルソング。チャクラ全開で踊りまくるヲタ紳士たち。ワインのデキャンタ片手にくつろぐ妙齢の女性たち。飛ぶように売れていく生ビール。盛り上がりは最初から最高潮である。ふと脇を見ると、物販スペースではアイドルたちがファンと歓談していた。もう完全にカオスと言っていい。健康ランド特有の館内着を着ている者と、アイドルTシャツを着ている者の割合は半々くらいか。ただし、すべての参加者がこれ以上ないくらい満面の笑みを浮かべている。記者は確信した。これは神イベントだ。

 トーニャハーディングのDJプレイが終わると、ステージにはEspeciaが登場した。メロウでアーバンなサウンドに乗せ、メンバーはキレのあるダンスを決めていく。健康ランドの牧歌的なムードと、Especiaの洗練された世界観が見事な調和を見せていた。印象的だったのは一瞬たりとも見逃すまいと、必死の形相で一挙手一投足を見つめるペシスト(=ファン)の姿。なにしろ2月29日をもって、三ノ宮ちか、三瀬ちひろ、脇田もなりの3人はグループを卒業するのだ。5人での貴重な雄姿を目に焼きつけているかのようだった。

 ステージを降りたEspeciaのメンバーを直撃すると、5人とも非常に満足げな様子。心の底からイベントを楽しんでいることが伝わってくる。

「みなさん、想像以上に熱狂していて驚きました。お風呂に入ったわけでもないのに、私も顔がすごく火照っているし(笑)」(三ノ宮ちか)
「ライブというより、親戚が集まってごはんを食べているような雰囲気(笑)。なんだか妙な安心感がありましたね」(冨永悠香)
「私自身も岩盤浴とか温泉が大好きだから、最高のイベントだなって思いましたね。あと、この5人でやるのも残り少なくなってきたから、ステージを噛みしめるような気持ちもありました」(森絵莉加)


先日のライブでメンバー3人の卒業が発表されたEspecia。Negiccoとは「Negipecia(ネギペシア)」というユニットを組み、シングルをリリースしたことも。

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 再びDJタイムを挟むと、館内着で現れたのはlyrical school。いつも以上に激しいラップで、一気呵成に攻めたてる。メジャーデビューが決まった直後とあって、とにかく前のめりな勢いを感じさせるのだ。これには後方で宴会を開いていた観客すらもビビッドに反応。ステージ前方まで押し寄せる者が続出する。パフォーマンス中はスタンディングでの鑑賞が禁止であるにもかかわらず、宴会場をダンスフロアに様変わりさせる力技は、さすがと唸るしかなかった。

「館内着は動きやすくて、ライブをやるのに最高! お客さんも同じ格好をしているから、一体感みたいなものも感じましたし」(ayaka)
「場所柄、みなさんもリラックスして楽しんでいる印象だったかな。すごく平和な感じがして。ここ、雰囲気すごくいいですよね」(ami)
「ライブで汗をかいても、そのままお風呂で流せるわけだから、こんなにライブ向きの会場はないですよ。今回来ることができなかった方も、次はぜひぜひ!」(minan)

「これがメジャーへ乗り込むグループの勢いか」と、観る者を圧倒したlyrical school。座敷に座りながらも踊り始める観客の姿も目立った。

 なお会場にはメインフロアの他に、「湯あがりDISCO」と呼ばれるサブのDJステージも設置されていた。こちらはさながらチルアウト・ルームといった趣で、はしゃぎ疲れた参加者がまったり身体を揺らせるケースが多かった模様。また、出演した3組のファン層は紳士・婦女が多いとされている。そのためアルコールが許可された現場であるにもかかわらず、暴徒化する者が皆無だったのもイベントとして好印象だった。

サブDJステージの「湯あがりDISCO」。まったりとくつろぐファンの姿が目立った。

 さて、トリで登場したのはNegicco。はっきり言って、彼女たちほど健康ランドが似合うアイドルはいない。新潟出身の3人が『浅草ROXまつり湯』を東京の本拠地としていたのは、あまりにも有名な話。そして、浅草のステージを観た嶺脇育夫タワーレコード社長によってNegicco はT-Palette Recordsに所属することになったのだ。この日も「ホーム」での戦い方を熟知したメンバーは、貫禄たっぷりの熱演を展開。『アイドルばかり聴かないで』のキメ部分「ざんねーん!」を「おんせーん!」に変更するなど、変化自在なステージングを見せつけた。

健康ランド慣れしているNegicco。『圧倒的なスタイル』では、多くの者が立ち上がって肩を組みながらラインダンスを始める一幕も。

Negiccoのステージが終わる頃には、宴会場が立錐の余地もない状態に。

 会場のファンからも話を聞いた。ステージ前に陣取る者がいる一方で、サウナと宴会場を激しく往復する者も。それそれ、自分なりのペースで楽しんでいるようだった。
「今日は、普段からよく一緒にお酒を飲む女友達5人と来ました。特に楽しみにしていたのはNegicco。すごく可愛かった~! 『湯会』って普通のフェスでは味わえない独特の雰囲気がありますね。館内着のまま床に座って、お酒飲みつつ、音楽に浸れるという……。しかも、お風呂まであるんだから。もう最高ですっ!」(25歳・OL)
「普段のライブとは違って、立ちっぱなしじゃないのがうれしいですね。気楽に観ることができるので。温泉ならではの雰囲気のゆるさがあるので、知らない人から気さくに声をかけられたりもするし、またそれが嫌な感じはしないんですよ。居心地がいい。『アイドルに興味があるけど、ライブハウスの雰囲気が怖い』っていう人も、ここならバッチリ楽しめるんじゃないかと思います」(22歳・女子大生)

 今回のイベント大盛況を受け、今後、再び『湯会』が開催される可能性は高くなったといえるだろう。新しいアイドルの楽しみ方として、温泉フェスが定着しそうな予感大だ。

もともとイベントなどでの共演が多かった3組。息もピッタリである。

(text 小野田衛/photo 東京神父)

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