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UPDATE|2022/08/04

“お茶の間”が育ててきた「未熟なスター」…気鋭の社会学者が語る日韓エンターテイメントの分岐点

周東美材『「未熟さ」の系譜―宝塚からジャニーズまで―』(新潮選書)

宝塚歌劇団、グループ・サウンズ、ジャニーズ、花の中三トリオ、そして現代の48グループや坂道シリーズ…人気を獲得してきた近代日本のエンタメ、その共通点は「家族」と「子ども」にあったと論じる研究書『「未熟さ」の系譜──宝塚からジャニーズまで』が2022年5月25日に新潮選書より刊行された。本書を著したのは近代のポップス史などを研究してきた大東文化大学社会学部准教授の周東美材氏。「『お茶の間の家族像』が大衆的なカルチャーの在り方を規定してきた」と論じる周東氏へのインタビューを交えて日本の大衆的なエンタメの性格を探った。

【写真】『「未熟さ」の系譜──宝塚からジャニーズまで』著者・周東美材 氏

ジャニーズにおけるJr.制度、女性アイドルにおける研修生や研究生、素人の少女を発掘しデビューさせてきた昭和のテレビ番組『スター誕生!』。日本のエンタメには、未熟な若者の成長過程が示され、それをファンが見守るという特徴があるようだ。『「未熟さ」の系譜』でその点も指摘されているが、周東氏はその源流を大正時代の童謡ブームまでさかのぼって論じた。

「“カワイイ”が世界的な言葉になるように、日本のエンタメやキャラクター文化には“可愛いもの、成熟しきっていないもの”を愛好することが根付いています。たとえば、今年上映されたJO1の映画にも 『未完成』というタイトルがつけられていましたね。それはなぜなんだろう?というところから研究を始めて、歴史的に解き明かしてみることにしました。そこから見えてきたのが、“子どもや家族の理想像”という問題でした」

周東氏によれば、まずその先駆になったのが大正時代の童謡ブームの中でデビューしていった10歳前後の少女たちだったという。彼女らはレコード会社のドル箱ともいうべきお抱えタレントだったが、そこには子どもの、大人と違う無垢さや未熟さに価値を見出す視点があった。以後そういった「子どもらしさ」がタレント性の重要な一要素として認められるようになり、現代のアイドル文化にもつながっているというのが『「未熟さ」の系譜』の論旨の一つだ。ファンがアイドルに向けるまなざしは、家族のなかで子どもに向けられるまなざしとよく似ていると、周東氏は指摘する。

「アイドルはしばしば“理想の息子”や“理想の妹”というイメージで消費されますが、ファンはアイドルや若いタレントに対し、『成長してほしい』という期待と『可愛い、初々しいままでいてほしい』という気持ちの、互いに相反する感情を持って応援してきたと考えられます。こうしたアンビバレントな感情は親が子どもに対して抱く期待とよく似ていますが、『恋愛禁止』の不文律もそういった女性アイドルを取り巻く環境を象徴していると思います。許される恋愛があるとすればそれは結婚する時だけであり、その先にあるのは『ママドル』の座なのです」


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