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UPDATE|2019/03/03

「肯定すべきは過去ではなく今」黄金期のモーニング娘。が歌に込めた想い


「人生ってすばらしい ほら誰かと 出会ったり恋をしてみたり」

このサビに代表されるように『I WISH』は基本的には前向きで、人生賛歌ともいえる模範的なアイドルソングだ。メインで歌っているのは酸いも甘いもかみ分けた先輩メンバーではなく、加入してまだ日の浅い3期の後藤、4期の石川・吉澤・辻・加護という面々。まだ12~15歳と幼く挫折を知らない彼女たちは「賑やかで楽しい」、そんな00年代の国民的アイドルグループの象徴的存在でもあった。しかし敗北と憂いのムードを拭って明るく生まれ変わったはずのモーニング娘。は、同時に人生賛歌『I WISH』の中でこうも歌っている。

「晴れの日があるから そのうち雨も降る全ていつか納得できるさ」

もしこの楽曲がストレートな励ましや応援に徹するなら、希望の象徴である彼女たちはあくまでも“晴れの素晴らしさ”だけを伝えればよかったように思う。しかし彼女たちはそうはせず、素晴らしい晴れの日と同列にして“いつか降る雨”の存在を伝え、そして「全ていつか納得できるさ」と改めて続けた。

結果的に、あの2000年に生まれた楽曲『I WISH』の願いとは、幸福の肯定ではなくその先の「苦しみの肯定」にこそあったのである。

気づいたときには前時代の幸福から零れ落ちてしまっていた日本。前時代の理想から外れたことによる「こんなはずじゃなかった」という社会の嘆きは、前時代を知らない若者たちにとって、時に生きてきた人生そのものの否定になりさえした。

しかしそんな「否定」の時代に、同じ無言の抑圧の中から這い上がっていった若きアイドルたち、そしてそのプロデューサーであったつんく♂は、世間が求める華やかな光の先にも降り続く雨の存在、そしてその雨に育てられた者たちの存在を、音楽で静かに肯定し続けていた。

同曲のライナーノーツで、つんく♂はモーニング娘。のことを「全てはやっぱり、普通の女の子」と定義する。

「彼女達が感じること、考えること、悩むこと……全てはやっぱり、普通なのです。そんな彼女達を見て、感動したり、何かに気づいたりする僕もやっぱり普通なんですけど……。そんな我々のプロジェクトが、『普通』という偉大なことをテーマに曲を作り上げました」(つんく♂)

つんく♂のコメントは「21世紀に向けて放つモーニング娘。の歌と、皆さんとの出会いが、すばらしいものになることを願っています」という一文で結ばれる。どんな巡り合わせの中にいようと、その時代に産声を上げた者たちにとって、肯定されるべきは過去ではなく、いつだって今このときなのである。

2000年のモーニング娘。はそんな「普通」の若者たちの願いを、日本中の注目を浴びながら、代わりにずっと歌い続けていた。



モーニング娘。10枚目のシングル『I WISH』(2000年9月6日発売)
AUTHOR

乗田 綾子


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