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UPDATE|2019/04/21

一番辛かった時期、道重さゆみを救ったあの名曲



2006年の秋。学業専念などを理由に5期メンバーの紺野あさ美と小川麻琴がグループを卒業し、一時期16人が活動する大所帯だったモーニング娘。は、いつしか8人組アイドルグループという規模までシュリンクされていた。世の変化を感じ、宝塚歌劇団の全面協力を得て「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」に挑戦するなどアプローチを変えてみるものの、一度無関心となった世間の目は何をしてもこっちに向かない。気づけば2003年リリースの『AS FOR ONE DAY』以来、モーニング娘。はもう何年もオリコン週間1位を逃し続けていた。直近の『Ambitiou! 野心的でいいじゃん』も結果はオリコン初登場4位。2006年のモーニング娘。はここまで2作連続で、累計売上が過去最低の4万枚台にまで落ちている。

昔のような「オリコン1位」の夢を語る自信を、もう誰もが失いかけていたその頃、あるネットユーザーが、2ちゃんねるに突然こんな書き込みをした。

「今見てビックリした……DVD付き3種類発売で気合入ってるし初動4万近く出れば週間1位行けるかもしれないこれ 」

そこに貼られていたのはモーニング娘。が11月8日にリリースする新曲『歩いてる』の同発作品一覧だった。当初『歩いてる』の発売日にはメジャーデビューしたばかりのKAT-TUNも新曲をリリース予定で、チャート上位を狙う人気アーティストたちは当然のように皆バッティングを避ける。しかし直前にメンバーの1人が語学留学で休業することになり、KAT-TUNはリリース予定を急遽延期することになったのである。

「よし、みんなで一致団結して1位を取っておこうか」

わずか6分後のこの返信から、すべては始まっていく。この動きに象徴的な牽引役がいたわけではない。大好きなアイドルを「落ち目」と嘲笑される日々に苦しんでいた1人ひとりのファンこそが、チャンスを知ったことで強く突き動かされていったのだ。

またその個人の口コミは以前のようにファン向けの掲示板だけにとどまらず、まさにmixiを始めとする生まれたてのSNSにも広がった。そしてテレビや雑誌などのマスメディアが誰も報じないところで始まった「モーニング娘。を再びオリコン1位に」運動は、本当に『歩いてる』を3年半ぶりのオリコン週間チャート1位に導くことになる。

後に2006年を一番辛かった時期と打ち明ける道重さゆみは、この『歩いてる』の歌詞に、何よりも励まされていたと話した。

「17歳のときの歌なんですけど『一人じゃないから みんながいるから』という歌詞が、完全に当時の自分の気持ちなんですよ」(※2)

SNSとは自己発信の場であると同時に、他者との繋がりも可視化するツールでもある。2006年のSNSの盛り上がりとモーニング娘。の喜びは、どちらも「みんながいてくれる」という安心感に結ばれていた。

そして悩める人が誰かの支えで前を向けたとき、一番最初に見えるものとは何なのか。やはり『歩いてる』の歌詞に、その答えはあったように思う。

「その先の空へ まだ見ぬ未来へ」



※1『道重さゆみ パーソナルブック「Sayu」』(ワニブックス)
※2「モーニング娘。 20周年記念オフィシャルブック」(ワニブックス)
AUTHOR

乗田 綾子


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