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UPDATE|2024/05/22

裏金問題で混迷を極める今だからこそ考える、田中角栄にあって今の政治家にないものとは

小林吉弥氏の最新著書『甦れ 田中角栄 人が動く、人を動かす 誰でも分かる「リーダー学」入門』(日本ジャーナル出版)

現在、政治の世界は深刻な閉塞感にいなまされている。為政者のリーダーシップが問われる中、改めて注目が集まっているのが田中角栄の突破力とカリスマ性だ。死後30年以上が経っているのに、なぜ人々は角栄に惹きつけられてやまないのか? 混迷を極める政界を救うヒントがそこには眠っているのではないか? 『甦れ 田中角栄 人が動く、人を動かす誰でも分かる「リーダー学」入門』(日本ジャーナル出版)を上梓した小林吉弥氏に解説してもらった。(前後編の前編)

 なぜ令和の世にあっても田中角栄が求められるのか? 政治家としてはロッキード事件を機に失脚したにもかかわらず、今もなお書店に行けば角栄の関連本がズラリと並んでいる。永田町で50年以上も政治取材を続ける小林吉弥氏は「佐藤栄作から今日まで26人の総理大臣を見てきたけど、いわゆるリーダーシップという面で角栄を超える人間が出てこない」と明言しつつ、「今の政治ははっきり言って物足りないんです」と表情を曇らせた。

「そもそも一昔前は上からガツンとキツく物事を言う上司や先輩がいて、それで組織が機能していた部分があるじゃないですか。でも今はとかくハラスメントが叫ばれる世の中なことも手伝ってか、そんなことは許されない。それは政界もまた同じ。政治は常に時代と伴走しているものですから」

 だが、この問題は二律背反する点もあると言葉を続ける。

「ソフトな時代になったからこそ、強い“父性”を時代が求めているという面もアル。ビシッとみんなを引っ張る、行動力と決断力が伴う強いリーダーが欲しいという考え方です。今は家庭の中でも“怒らない教育”が推奨されているけど、やっぱりお父さんは優しいだけじゃなくて強くあってほしい。そう子供は考える。有権者もまた同じでしょう」

 そして小林氏がもうひとつ重要な点として挙げるのが、角栄の飾り気のなさだ。とかく政治家や権力者たちは素顔をなるべく見せないようにする傾向が強い。ところが角栄の場合は自分をさらけ出すことを厭わないし、すべて本音で話を進める。その点が極めて異質だというのである。

「たとえば女性問題にしても、隠そうという意識が角栄にはあまりない。だから、政権担当時には女性スキャンダルで足元をすくわれたという面もあるわけです。また、攻めるのは強いけど、守りには弱いタイプ。そこは政治家としていかがなものかという意見も出てくると同時に、人間的な面白がある」

 現在、自民党は未曽有の危機に陥っている。派閥の政治資金パーティー裏金事件によって、国民からの信頼は完全に失墜したといっていい。こうした自民党特有の派閥システムは、角栄の時代からさらに拍車がかかったという見方も根強い。自民党6派閥の中で麻生派を除いた岸田、二階、安倍、森山、茂木の5派閥が解散することを表明しているが、果たしてこれで本当に派閥政治は終焉を迎えるのだろうか?
AUTHOR

小野田 衛


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