いつしか、自分もアイドルになりたいと考えるようになっていた山内は、何を受ければいいのか迷っていた。中3になり、進路も考えなくてはならない。そのタイミングで募集がかけられていたのが、AKB48の16期生オーディションだった。ミュージカルも好きだけど、アイドルは若いうちしかできない。もう迷う理由はなくなっていた。
劇団四季で揉まれた山内は、16期生の中でも目立つ存在だった。パフォーマンスが圧倒的なのだ。アイドルらしい曲ではかわいさを前に出せたし、いわゆるダンス曲ではキレで観る者を圧倒した。
あどけない顔立ちながら、公演ではバキバキのダンス曲をソロで踊る機会も与えられた。へそ出し衣装から見える腹筋は割れていた。その踊りを目の当たりにした、AKB48の劇場公演に長年関わるスタッフが、「一人だけ出来上がっているのがいるな」とつぶやいたという。
パフォーマンスでは目を引く存在だったが、自分の性格に悩んでいた。人見知りなのだ。先輩と打ち解けられないから、MCではうまく話すことができない。アイドルはダンスだけでは人気爆発とはいかない世界だ。学校の授業中にさされても、「頭が真っ白になります」という彼女には、突破すべき壁が内面にあった。ここは、自分を積極的に表現しないと目立てない世界なのだ。
一昨年、シングル『Teacher Teacher』で初選抜になると、『NO WAY MAN』『ジワるDAYS』でも選抜入りを果たした。カップリング曲ではセンターに立ったものの、『サステナブル』では選抜入りを逃した。キャリア数年でその位置にいることは立派だが、客観的に見れば選抜の当落線上にいるメンバーだったといえる。
昨年の秋頃だろうか、山内は自らを「魔法使い」と名乗るようになった。何があったかはわからないが、とにかく名乗りはじめた。すると、どうだろう。公演のMCにもすっと入っていけるようになった。キャラを手にしたことで自信をつけたように見えた(このあたりは本人に確認しないとわからないが)。