最近、ネット上で不特定多数の出資者を募る「クラウド・ファンディング」を利用して、PV制作などの資金を調達するアイドルが増えている。なかでも仙台を拠点に活動する「みきちゅ」は、インディーズのローカルアイドルにも関わらずCAMPFIREで92万円超の支援を獲得し、新作CD制作のプロジェクトを見事サクセスさせた。
エンタメNEXTでは前回、プロジェクトを始めたばかりのみきちゅにインタビュー。その後、無事にサクセスを果たしてプロジェクト達成者となった彼女に、サクセスに至るまでの道のりや気持ちの揺れ動きなどをあらためて聞いてみた。
ライブで熱唱するみきちゅ。曲も詞も自作ゆえ、感情の入り方は深い
「お金集めている子だ」って見られることもありました――ライブのときにCAMPFIREについて呼びかけたりは?
みきちゅ 最初は単刀直入に、「70万円どうしても必要なので、よかったらホームページを見てください。私も恩返しをいろいろ考えています」とMCで話していたんですが、それだと会場がシーンとしちゃうんです。初めての方には「お金集めている子だ」っていうイメージで見られることもありました。
そこで最終的には、「新しいCDをどうしても作りたくて、みなさんの力が必要なので、ホームページを見て賛同していただけたら、どうぞよろしくお願いします」みたいな言い方に落ち着きました。気になってくださった人がホームページを見に来てくれて、こういうことだったんだって思ってくださったら、という感じです。
――ファンのみなさんはCAMPFIREやクラウド・ファンディングについて知っていましたか?
みきちゅ 半々くらいでしたね。「CAMPFIREってなに?」という方もいましたし、ほかのアイドルさんでCAMPFIREをやっている人がいるので知っている方もいて、日本でも広まってきているんだなって思いました。
――今回のプロジェクトには「即興であなたの歌を作ります」というリターンも用意されていて、下北FMでまさにその即興をやってみせましたが、これなら支援したくなるかもと感じました。
みきちゅ そうなんです! あれは普通にアイドルをやっているとなかなか見せる機会がないんですが、ほかのアイドルさんにはなかなかできないことだと思うし、私自身もピアノで即興で演奏するのが好きなので、そこは前面に出していきたいなと思います。
ライブでは”みきちゅファミリー”の熱烈な応援が。それ以外の人々にも自分の音楽を届けることが課題になる
――アイドルとして活動する前から音楽活動はしていたんですよね。
みきちゅ バンドと弾き語りをやってました。ピアノはヤマハの特進コースみたいなところで習っていて、作曲もひと通り教わりました。聴いたことがある曲は耳コピですぐ弾けるので、自分でやっているツイキャス(スマホからストリーミング放送できるアプリ)でも流しているんですが、いつも見てくださる方にはそれが当たり前になっちゃているんです。
――そりゃずいぶんとハードルが高い”当たり前”ですね。
みきちゅ いつも見てくださっているファンからは、ほかの人の曲を弾くより自分の歌を歌ってほしいって言われることもあります。でも初めて観る人はすごくビックリしてくれるので、どうすればツイキャスをもっと多くの人に見てもらえるんだろうって日々考えています。まずは継続は力なりですね。
素顔は仙台在住の大学4年生。来年の大学卒業を機に活動拠点を東京に移す予定もある
――最高額のリターンはなんと、「みきちゅと一緒にいく遊園地ツアー」ですね。
みきちゅ アイドルさんのなかにはファンの方とのゴハン会をされている方もいます。私はいつそういうことをやったらいいのかわからなかったし、みんなはライブを観たいんじゃないかなと思いつつ、心のどこかでやってみたいという気持ちもあったんです。
以前、としまえんのイルミネーション点灯式に出演した時、衣装を作ってくださったスタッフさんと一緒にライドに乗ろうとして、近くにいたファンの方に「一緒に乗ろうよ」って声を掛けたことがありました。その時に「これだ!」って思ったので、:今回のリターンに入れてみました。
――レコーディング風景の公開なんてどうですか?
みきちゅ 私、変なところでアーティスト気質があって、レコーディングの時はひとりで集中できないとダメなんです(苦笑)。ライブの楽屋でも、ほかのアイドルさんが「キャー!」ってワイワイ楽しそうにしているのに、私は本番前にいったん集中しないとダメなタイプなんですね。
だからPV撮影なら見られても平気だと思ってPVの撮影見学というリターンを設定したかったんですが、サクセスできなかったときのことを考えてやめました。プロジェクトを始めるときはまだ、PV撮影の手配をしてなかったんです。
この衣裳は制作を手伝ってくれる人に作ってもらったという。ライブのブッキングもすべてみきちゅ自身が行なっている
弾き語り時代には新人発掘オーディションに応募したことも――プロジェクトが進んでいる途中では伸び悩みの時期もありました。
みきちゅ 伸びが止まったときは、「このまま終わっちゃうのかな」って心配になりました。これで達成できなさそうだったら親のカードで支援をお願いしようかなとか、自分のカードで自分に支援してみようとか、そんなことまで考えてました(苦笑)。失敗したら相当ヤバいと思っていたので、思い詰めていた時にはネットで「学生 借金」って検索までしたりして……。
さすがにそれは違うって思いなおしましたが、始めるときもすごく悩んで、資金が集められないならCD-Rを焼いて手作りするというのも違うと思っていたので、これは信じるしかないなと思っていました。なかには「なかなかライブにいけないぶん、こういうのがあると応援できてうれしい」と言ってくださる方もいて、なんて恵まれてるんだろうって思いました。
――CAMPFIREとの出会いは?
みきちゅ 人づてに1年くらい前に紹介してもらったんです。でもそのころはまだ、日本ではクラウド・ファンディングがあまり知られていなかったし、「自分でコツコツやっていきます」って断ったんです。でも新しいCDを作りたい気持ちが強くなったし、挑戦したい気持ちが上回って、今回挑戦してみました。
――自分でCDを作るわけですが、もしメジャーデビューの話があったら?
みきちゅ 決して一人ぼっちでやっていきたいわけではないですし、メジャーデビューは夢です。弾き語りしていた時はソニーとかユニバーサルの新人発掘オーディションにも応募していました。
ファンのなかには「みきちゅが事務所に入ったら残念」という方もいますし、その気持ちも理解できます。でも、もっと大きくなるには一人でできることには限界もあるし、誰かに認めてもらって初めて生まれるものもあると思います。
――上を目指していくなかで、アーティストとしての課題は?
みきちゅ ボイストレーニングにも通っていますが、歌をもっと安定させたいです。振り付けもいまは自分で全部やっていますが、どうしても似た感じになってくるので、一緒に作ってくれる人がいたらいいなあと思います。あとはとにかくいい曲を書いて、いい歌詞を書くこと。たまに「みきちゅは面白いと思うけど、曲が好みじゃない」っていう人もいて、そんなときは絶対その人にCD買わせてやる! って思ってます(笑)。
来年上京しても、故郷・仙台のことは大事にしていきたいと語るみきちゅ。しばらくは仙台と東京を往復する生活になりそうだ
アイドルのファンが幸せになっているのが魔法みたいに思えた――そういう反骨精神的なものは、どこから芽生えたんですが?
みきちゅ ほかのアイドルさんも言ってますが、マイナスからのスタート、本当に何もないところから始めたので、アイドルのイベントに出演するのも大変でした。主催者の方に「あなたのことを知らないんだけど」と言われることもあったし、自分で重い荷物を持って歩いているときにほかのアイドルさんを見て、大人の人に荷物を持ってもらっているのをうらやましいと思ったりもしました。
ただ、うらやましいとは思っても自分のことを可哀想と思ったことはないですし、もっと上に行ってやると思うようにしています。最近は好きなバンドやアイドルさんを観ても、自分と比べてしまって悔しくなっちゃうんですよ。UVERworldさんは私が音楽を始めるにあたってすごく大切な存在だったんですが、最近は「なんでこんないい曲を書いて、盛り上がっているの?」って思っちゃうんです。自分にないものを持っている人を見ると悔しいし、この人と共演したい、この人を超えたいって思いますね。
――いまのアイドルシンガーソングライターにたどり着くまで、いろんな変遷があったんですよね。
みきちゅ 弾き語りをやっているときに限界を感じていたんです。弾き語りだと曲も暗めになりがちで、「この曲じゃMステ出れないな」って(笑)。そんなときにアイドルにハマって、それまでは「辛いけど頑張る、夢をかなえる」など意味のある曲しか作ってなかったんですが、アイドルは「君が好き、君に会えて嬉しい」っていう曲を歌っていて、ファンのみなさんが心の底から幸せになっているのを目の当たりにしたんです。それが魔法みたいに思えて、自分もやろうと思ったんです。
だから自分が音楽を長く続けるために、アイドルという道を選んだんです。弾き語りをやっていた高校生のころはあまりファンもいなくて、それでライブを続けていくのはしんどくて、何回も活動を休止しては再開という感じでした。それに弾き語りをやっていると、どうしても「○○っぽい」って言われちゃうんですね。それがアイドルになってからは、そういうこともなくなりました。
CAMPFIREをきっかけに未来への光をつかみたい
――今後目指していく方向で、目標となるアイドルはいますか。
みきちゅ うーん、とくにいないですね。そうだ、UVERworldみたいになりたい(笑)。田村ゆかりさんみたいに何歳になっても、みんなのお姫様でいるのは素敵だと思います。もっと自分に人気が出たら、バックダンサーも付けたいですね。あとは、どんなに歌が上手い人でもボイトレはされているので、もっとしっかりボイトレしたいです。ボイトレしていると下手な自分にイライラしちゃうんですよね。
――そういうところはアイドルとしてマジメすぎる点かもしれないですね。
みきちゅ そうなんです、私けっこうアイドルに向いていない(苦笑)。でも新しいアイドル像を作っていければと思います。叶えたい夢やビジョンがあって、いろんな人に曲を聴いてもらって武道館でライブをしたい。それが叶わなかったら死んじゃうんじゃないかって思ったりします。
――大丈夫です、そんなことじゃ死なないから。
みきちゅ 長生きしたいんですよ(笑)。
――まずはプロジェクトがサクセスして、夢がひとつ
叶いましたね。
みきちゅ 今回のCDにする曲『アイドルの秘密』は最近、YouTubeに歌詞付きでアップしたらすごく反響がありました。アイドルもやっぱり曲が良くないと生き残っていけないと思うし、最後に残るのは愛をもって作った曲だと思います。
今回はみなさんに期待してもらって夢が叶ったので、期待以上のものを作りたいです。いまライブで使っている音源もブラッシュアップしたくて、これまでずっとギターをお願いしたいと思っていた人にお願いすることができました。来年、大学を卒業して上京する時に、東京と仙台でワンマンライブができるようになっていたいですね。
ファンによる新たな応援手段として注目されているクラウド・ファンディング。アイドルが活用する例は増えているが、みきちゅがローカルアイドルでもプロジェクトを成功させられる可能性を示したことは、アイドル文化の深化を示す好例なのかもしれない。
次の課題は、支援者(パトロン)が納得できるだけの作品を世に送り出すこと。みきちゅの新曲を聴く限り、そこを突破することは決して難しくないように思われる。そして本人が「TIFやアイドル横丁、@JAMに出たい!」と熱望するように、もっと人前で歌う機会が増えれば、彼女の作品に共感するファンも増えるのではないだろうか。
■CAMPFIRE みきちゅ「アイドルの秘密 EP」発売への道!http://camp-fire.jp/projects/view/952■アイドルシンガーソングライター みきちゅ 公式サイトhttp://mikichu-magic.jimdo.com/