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UPDATE|2020/09/10

元NHKアナウンサー刈屋富士雄さんが語る、オリンピック屈指のあの名実況が生まれた裏

NHKのアナウンサー、解説委員として長年オリンピックを間近で見てきた刈屋富士雄氏


──お言葉ですが刈屋さんの実況は情感がこもっていて、報道とはかけ離れている印象もあります。

刈屋 その印象、間違えていないですよ。私はNHKのアナウンサーの中では邪道と言われてきましたから(笑)。もっとも王道と自分で言っているアナウンサーがどんな中継をしているかというと、見ればわかることをしゃべっているだけ。「事実だけを伝える」って口にするのは簡単ですけど、その事実をどういう言葉で伝えるのか? どんな事実を切り取って伝えるのか?その言葉をどのタイミングで言うのか? やっぱりそこはしっかり向き合って考えるべきなんです。

「報道だから、事実だけを伝える」という言葉を真に受けた若いアナウンサーたちは、テレビなのに見ればわかることばかり口にするようになっています。僕も若い頃は先輩アナウンサーから「事実だけを伝えろ」って指導を受けたんですよ。その場では「わかりました」ってかしこまっていたけど、心の中では「じゃあ、やって見せてくださいよ」と思っていた(笑)。

──サラリーマンとしては、いささか反抗的ですね(笑)。ではNHK時代、後輩アナウンサーからアドバイスを求められたら何を教えていました?

刈屋 やっぱり一番大事なのは「価値判断」そして「言葉の選択とタイミング」。その感覚を磨くのは「何を見るか?」ということなんです。要は視点の問題ですよね。視点を養うためには、数多く試合や練習を見ることが必要。だから、まずはとにかくたくさん見ることをアドバイスしました。

 アナウンサーという職業の中で最後まで残るのはスポーツ実況だと私は考えているんです。今後はAIがニュース原稿を読むケースも増えるでしょうし、ナレーションなどはすでに声優や役者が担うようになっている。番組の司会者だってタレントや芸人がメインになっていますしね。ところがスポーツアナウンサーだけは、専門的な知識が求められるうえにトレーニングも必要なんです。

【あわせて読む】コロナ下の東京五輪について考える「それでも開催するべきだというこれだけの理由」

苅屋富士雄
▽『今こそ栄光への架け橋を それでもオリンピックは素晴らしい!』
揺れ動く2020東京大会―。それでも見たい未来のために。五輪屈指の名言を生んだアナウンサー、初の著書。取材現場の裏話や名ゼリフ、実況秘話とともにオリンピックへの熱い思いを綴ったエッセイ!
著者:刈屋富士雄
発行元:海竜社
AUTHOR

小野田 衛


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