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UPDATE|2021/01/13

“攻める大和撫子” 山口恵梨子女流二段「コロナ禍で女流棋士は何のためにいるのかを真剣に考えた」

山口恵梨子 撮影/松山勇樹



──対局は仕事ではなく、もっと大切なものだと。一方、山口女流二段は、普及活動に熱心な女流棋士として知られています。

山口 対局と普及の仕事のバランスをどう取るかは棋士全員の課題だと思います。私が女流棋士になったときに、「将棋が強くなりたい」という思いはもちろんあったんですけど、一番やりたかったことが将棋の普及でした。というのも、父が将棋好きで、子どもの頃は将棋雑誌やエッセイ集、観戦記など将棋の本がたくさんある家で育ったんです。将棋関連の本を、昔のものから最新のものまで誰よりも読んでいる自負があって。だから、女流棋士になって、それを世間の人たちにお伝えできればと思っていたんです。

──普及活動の一環として、ABEMAなどのネットの将棋番組にご出演されていますが、解説の聞き手としてのこだわりや苦労話はありますか。

山口 私が女流棋士になりたての頃は、将棋解説の聞き手のやり方が「こうやるべき」と固まっていたので、それ以外のやり方を取り入れたいなと意識していました。あと、その将棋番組をどの層が観ているか、どの層が観ていないか、視聴者を分析するのが大事だと思います。子どもの頃、将棋番組を観て、正直何を言っているか分からなかったんですよ(笑)。大人になってようやく面白いと思えるようになって。その違いは何かと考えたときに、ある程度、将棋が強い人向けの番組が多いのかなと思いました。あとは男性向けの番組が多いのかなと。

──視聴者のことを考えるというのはプロデューサー的視点ですね。

山口 自分は演者なんですけどディレクターさんと話したり、スタッフさんがどんな番組を作りたいか聞いたうえで、自分的にどうしたいかを相談しています。

──ABEMAの番組など、将棋を知らなくても楽しめる内容になっていますね。

山口 そう言っていただけるとすごくうれしいです。生放送で対局中ずっと放送しているので、対局者が考えている時間を解説者と聞き手がつながなくてはならない。でも、解説者が考えられる先の手を全部解説してしまうと何も話すことがなくなってしまうんです。私たちの間では結論が出ていても、対局者はまだ考えている、さあ、どうしようと。そうなったとき、世間話になります(笑)。世間話でも解説者の方の良さが出るように話を振ったり、「昔の本のエピソードでこんなことがありましたが本当ですか?」とか、解説者の人柄が伝わるように意識しています。

──今までは棋士の個性というか、パーソナリティが分からなかったので、最近はそういった面がすごく表に出てきていると感じます。

山口 そうですよね。棋士のイメージって、頭がいい、真面目、大人しい、メガネかけているとか、固定観念があるじゃないですか(笑)。

──確かにありますね(笑)。

山口 それってトップの先生たちの写真を見た印象だと思うんですよね。でも実際に羽生善治九段や佐藤康光九段と会ったら、そのイメージは変わると思います。もっと個性的というか。なので、番組では将棋のイメージ、ひいては棋士のイメージが変わればいいと思っています。

──解説の上手な棋士の特徴とは?

山口 木村一基九段や藤井猛九段はすごく解説が上手いですね。私が聞いていて解説が面白いと思う先生たちは、誰よりも準備しているし、お客さんに面白いと思ってほしくて、いろいろ考えていらっしゃいますね。

──テレビ番組などでの木村九段の解説などは、アマチュアの目線に立って、基本的なことまで教えてくださいますよね。

山口 だから解説を聞いていると将棋のことがよく分かるんですよね。木村九段の良さは話の面白さと将棋の解説の分かりやすさだと思います。自分の中で将棋の考え方が言語化できているから視聴者にも理解しやすいんだと思います。若手の棋士でも解説の面白い方がたくさんいます。たとえば佐々木大地五段、高見泰地七段、近藤誠也七段、増田康宏六段でしょうか。みんな強い方ですね(笑)。

CREDIT

取材・文/中村佳太 撮影/松山勇樹


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