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UPDATE|2014/08/21

ひめキュン新曲『パラダイム』で垣間見えた、アイドルブーム後への“覚悟”

 少しショックだった、ひめキュンフルーツ缶のメンバーの発言がある。リーダーである谷尾桜子と、LinQのリーダー天野なつ、Dorothy Little Happyのリーダー白戸佳奈との、音楽ニュースサイト「ナタリー」における鼎談の時のものだ。

 谷尾はここで、今のアイドルシーンが低迷期に入っているのではないか、と述べている。

「メンバーとも話してたんですけど、業界自体の勢いがちょっと落ちてきたというか。それってウチらだけかなって思ったら、ほかのグループもどうやら難しいようで。そういう時期に突入しちゃったんじゃないかなと」



ひめキュンフルーツ缶メジャー4thシングル『パラダイム』通常盤

 前作『ハルカナタ』がひめキュンにしては珍しい季節ソングで、ポップで、(比較的)オーソドックスなアイドルをイメージさせる曲調だったのとは打って変わって、従来通りの硬派な曲調(従来といっても、あくまでもメジャーデビュー以降のシングル表題曲『アンダンテ』、『モラトリアム』の流れにおいて、という意味だが)。

 この『パラダイム』を聴いて、そしてライブで観て、感じたのはひめキュンフルーツ缶というグループにとって、アイドルブームの行く末はさほど問題ではないのかもしれない、ということだ。

 いや、もちろん、問題ではない、というほどにひめキュンは大御所でもないし、まだ爆発的なブレイクを見せているわけでもない。ブームが停滞すれば、影響を受けることは必至だろう。しかし、アイドルブームに頼らずに、たとえアイドルブームが終わろうとも、ひめキュンは、その存在をより確固たるものにしていく。そんな決意・覚悟を『パラダイム』からは感じるのだ。



ひめキュンフルーツ缶。左から奥村真友里、河野穂乃花、岡本真依、谷尾桜子、菊原結里亜

 ここからは完全な妄想に過ぎない話。

 ひめキュンのメンバーは『パラダイム』に関して、「周囲に流されてばかりの世の中に対して、『流されてんじゃねーぞ』という怒りの歌」だと説明する。しかし、本当は、誰かに対しての怒り・メッセージではなく、ブームの盛り上がりに決して流されることなく、自分達の信じた道を突き進む、というひめキュン自身の意思表明なのではないだろうか。
 
【次ページ】「CDリリースに感じたひめキュンの余裕とは」
 


CDリリースに感じたひめキュンの余裕とは

 前作『ハルカナタ』では、その購入に関して、ひめキュンの所属するマッドマガジンレコード・伊賀社長がファンに頭を下げる一幕があったという。目標はオリコン週間10位以内へのランクイン。購入特典が増え、発売20日前から予約会を開始し、4タイプをリリース。結果、オリコン週間12位という過去最高の順位を獲得した。
 
『パラダイム』も前作同様、予約会を開始。むしろ40日間前から予約会スタートということで考えれば、一見、前作以上の力の入れ具合である。しかし、今作に関しては、前作ほどの力み・緊張感が感じられない。
 
 発売するCDは2タイプだし、予約会は平日の真っ昼間だらけで、ちょっとヤケクソ感あるし……。CD発売週の日曜日という“稼ぎどき”は「@JAM EXPO」(8月31日)が入っちゃってるし。『パラダイム』のジャケットの妙にキラキラしたアイドル感も、これまでのひめキュンの路線からすると違和感たっぷりで、やっぱり妙なヤケクソ感……。

 また『パラダイム』発売に合わせたショートツアー、東京の会場は平日のTSUTAYA O-EAST!! 普段、休日に行なう定期公演の会場はそれより数段小さい箱であるTSTAYA O-nestなのに!! なぜ、普段より集客に苦戦するであろう平日のライブにO-EAST!?
 
 


ひめキュンフルーツ缶のライブは独特のパワフルさにあふれている

 話がずれたが、CDリリースに関するそんなヤケクソ感、僕にはひめキュンの余裕に感じられ、その余裕は、『パラダイム』という曲自体と同様、順位なんかに惑わされないという覚悟にも受け取れるのである(何度も書きますが、完全に妄想です……)。

『パラダイム』の歌詞に目を向けると「突然変わっていく 世の中のトレンド」は世の中全体のことでももちろんあるけれど、ひめキュンというグループを取り巻く環境、アイドルを取り巻く環境とも受け取れる。そんな環境に、振り回されることを否定し、「標準を合わせること」をナンセンスと看破する。

 菊原結里亜が「オリジナルじゃなきゃ」とラップする本作は、当初、制服を着こなし、王道なアイドル路線のグループとしてスタートしながらも、現在の5人体制となってから、ロック色を強め、もう好きなようにやる! という伊賀社長の開き直りが全開となった現在のひめキュンの方針を彷彿とさせる。

 アイドルにとって重要なものの一つ、物語。運営は物語を用意し、その物語を完遂するために、ファンにCDの購買を促し、そして物語を持続させるために、少しずつ大きな舞台を用意し、メンバーとファンに達成感を与え続ける……分かりやすい物語の生産もひめキュンは拒んできた。その代わり、常に良曲を生み出し続け、地道に、ひたすら素晴らしいライブを行なってきた。

「Don't be afraid みんなと同じでいいなら もう君はいらないのさ」という「君」はひめキュン自身のことであり、単に周囲と同じことをやっていたら生き残れない、アイドルブームに流されず、アイドルかアイドルじゃないかなんて関係なく、純粋に素晴らしい音楽とライブの場を提供するグループであり続けよう、とする強い意志が感じられないだろうか。



爆発的ともいえるエネルギーで観る者を魅了するひめキュンのライブ

 ブームの行く末なんて関係なくひめキュンはひめキュンとしてあり続ける。そんな決意はスケジュールにも現われている(本当にしつこくて申し訳ないですが、完全に妄想です……)。

 一部のトップグループを除く、現在のアイドルグループの活動の中心は他アイドルグループとの対バン。他のグループのファンも観る現場で、自分達のファン以外も魅了し、新たなファンを獲得するための場である。

 しかし、7月8月、ひめキュンの夏のスケジュールにおいて、他アイドルと共演する機会は思いの外少ない。本拠地・松山サロンキティでの対バンを除けば、8月31日の「@JAM EXPO」があるくらいである。一方、夏フェスに関しては、7月13日の「サンバースト」を皮切りに、8月10日の「ロッキンジャパンフェス」、8月17日の「サマーソニック」、9月7日の「バーリトゥード」と目白押しと言っていい。

 フェスだけでなく、完全にTIF2014の日程にぶつけた「MADCREW大分制圧!!」や、まさに地域密着イベントと言える「はかた夏まつり」など、ひめキュンならではのライブも盛り沢山。

 こじつけと言われれば、反論の余地はないが、そんなところからも『パラダイム』で垣間見える決意を汲み取れなくもない。順位に惑わされず、ブームにも惑わされず、己が素晴らしいと思う音楽をやり続け、結果集まってくる人々と感動を共有する。そんなひめキュンの決意を。



パワフルさを伴ったカオス感はひめキュンならではの世界だ

 とはいえ。ひめキュンのオリコン10位。僕はやっぱり見たい。

 10位に入ったからって何も変わらないかもしれない。必ずしも、そこから先に繋がるわけじゃない。今でも多くの人に愛されているし、地元密着型アイドルとして他にない成功を収めているグループと言えるかもしれない。

 でも、ひめキュンはもっともっと多くの人を魅了するグループなんじゃないか、とも思う。問答無用で盛り上がれる楽曲、ライブの熱気、バカバカしいことも辞さない運営方針、そしてメンバー自体の魅力。アイドルファンだけじゃない、色んな人々の心を打つ存在であると思わずにはいられない。

 現在のように、熱気あふれるライブハウスで盛り上がって、握手会で気軽に話せる距離感はかけがえのなく素晴らしいもので、もしその場が失われるのだとしたら、それはとてもつらい。ただ、一方で、より多くの人達と感動を共有したい、より大きな会場で彼女達が堂々とパフォーマンスをする姿が見たい、という思いもある。『パラダイム』のオリコン10位以内へのランクインの達成は、果たしてそんな新たなステージへの足がかりとなるのだろうか。

 そんな僕のしょーもない悶々とした展望なんて関係なく、シングル予約会、サンバースト、ガガガSPや東京女子流との2マン、菊原結里亜生誕祭……7月もひめキュンは精力的な活動をこなし続けてきた。

 ひめキュンフルーツ缶の熱い夏はもう始まっている。

(文・/編集部)

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