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UPDATE|2021/02/19

映画『あの頃。』原作者・劔樹人×監督・今泉力哉が語る「ただ泣ける系の映画をつくる気はない」

(C)2020『あの頃。』製作委員会



──この映画に出てくる人たちって、言ってしまえばアイドルを応援しているだけですよね。大会で優勝を目指すわけでもなければ、デビューを勝ち取るために努力もしない。物語としてカタルシスを作りづらかったのでは?

今泉 誰かと戦って勝利したり、主人公が成長したりする映画も、僕がつくらなくていいというか。ほとんどの映画がそうなので。僕の興味は、だらしなかったりダメだったりする人が、一応は頑張ろうとするものの何もできずに終わる……とか。そういう題材の方が興味がありますね。頑張るって素晴らしいことですけど、人間、みんながみんな頑張れるわけではないですし、僕自身も極力さぼって生きたいと考えていますし。

劔 でも確かに原作が脱力感満載だから、映画にするときは苦労したんじゃないですか(笑)?

今泉 確かにヤマ場のつくり方は少し苦労しましたね。ただそれよりも心を砕いたのは、ちょっとした下ネタや、品のない男たちの集団ならではのシーンの描き方について。原作には風俗ネタやAVなどの話が出てきますが、「現役アイドルが出演して、今は女性ファンも多いハロプロを題材にした映画で、どこまでそういった表現をするのか?」とかは考えました。

劔 こんなことになるなら原作の段階で下品な部分はすべて描き変えたかったです。単純に時代背景も違うから、「今だったら許されない」ということも多いんです。そこは僕からもお願いしたし、スタッフの人たちも含めて神経を使ってもらったポイントでしたね。

今泉 ただ、シンプルに「すべての際どいシーンを取り除けばいい」という単純な話ではない。死ぬ間際になっても性的なことを考えるし、どこか情けないけどそれが人間のリアルな姿で。そういう部分が描かれていることも『あの頃。』の魅力というか。あと、映画が完成してみて気づいたんですけど、風俗嬢やAV女優とのシーンなどがあることで、いかにアイドルをそういう性的な対象としてみていないか、ということも強度をもって描けたと思っています。

AUTHOR

小野田 衛


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