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UPDATE|2022/04/27

「『愛してる』より『200万稼げる』の方が信用できる」過激化する「推し活」の功罪

撮影/西邑泰和

新宿・歌舞伎町に集う若者の生態を独自の視点から研究する佐々木チワワさん。昨年12月には『ぴえんという病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)を上梓し、「ぴえん系女子」「自殺カルチャー」「トー横キッズ」「SNS洗脳」「過激化する推し活」などを克明にレポートした。インタビューの後編では、今やアイドルのみならず一般企業やホストにまで浸透した「推し活」の最新実態を聞いた。(前後編の後編)

【写真】現役女子大生ライター・佐々木チワワさんの撮り下ろしカット

【前編はこちら】「マスコミ報道とは違う現場の声」Z世代が考える新宿歌舞伎町・トー横キッズの本当の姿

 現役女子大生でもある佐々木さんは、高校1年生のときからライター活動を続けている。不夜城とも呼ばれるこの街の人間模様を観察する中、大きな変化だと感じるのは「男たちの承認欲求が強くなった点」だという。

「一般人がタレント感覚で注目を集めようとする現象は、SNSのさらなる普及に伴って加速化していった印象があります。ホストになろうという人たちも、『ここでカネを稼いで成り上がってやる!』というギラギラした欲望よりは、もっとキラキラした承認欲求が目立つようになっているんですよ」

 ホストは言うに及ばず、メンズ地下アイドル、男性コンカフェ、メンキャバ(メンズキャバクラ)、ボーイズバーなどが歌舞伎町では雨後の筍のように乱立。ネット上には、こうした若い男たちの加工された自撮り写真が溢れかえっている。

「結局、ベースにあるのは“推し活”という言葉の便利さなんですよね。ちょっと前までは推し活なんて一部のアイドルオタクとアニメオタクの専売特許だったけど、今は企業も推しビジネスが儲かるとわかったものだから、積極的にプロモーションしているじゃないですか。昔の価値観では『家族のために働くのは美学。いい歳してアイドルなんて追っかけるのはダメ人間』みたいなところもあったのに、『本気で費やせる対象があると人生が豊かになるよね』みたいに社会の見方も変わっていますし。だからホストに通う行為だって、『大丈夫? 騙されていない?』と心配する声に対して『推し活だから』の一言で押し通せてしまう。推しに対してお金を使うことが、消費社会におけるアイデンティティになっているんです」

 AKB48の総選挙でCDを大量買いするのと、推しが在籍するメンキャバに貢ぐ行為は、構造的に大きな違いはないのかもしれない。推し活に没頭する姿が「自己犠牲の精神がエモい」と仲間内でリスペクトされるのはジャニーズやK-POPでもよく見られる現象だ。アニメファンが祭壇(推しキャラのグッズを部屋の一箇所に集めてディスプレイすること)を作ってアピールするのも、その同一線上にあるといえる。

「恋愛って基本的に傷つきながら、それでも相手とコミュニケーションを取って成立するものじゃないですか。ときにはそこで自分を変える必要も出てくるかもしれない。だけど推し活の場合、いくら使ったかという具体的な金額が評価軸になるし、お金さえ使えばコミュニケーション能力なんて何も求められないんです。偶像崇拝だから、自分は傷つかないで済む。愛って本当はそんな簡単なものじゃないはずなんですけどね」
AUTHOR

小野田 衛


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