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UPDATE|2022/03/21

「悪党ども力を合わせよう」不良ファッション界のトップランナーがウクライナ人道支援Tシャツを発売した真意

オンライン取材にこたえる石川智之氏


「まさにこれからタッグを組もうとしていた矢先の出来事でした。彼のデザインはセンス抜群なのですが、ドクロや蛇の柄がメインなので戦争期間中の作成はさすがに二の足を踏んでいます。先日、彼はSNSで『1ドルでもいいから世界からの支援が必要だ』って訴えていたんですよね。自分が日本でチャリティTシャツを作ることを伝えたら、すごく喜んでくれまして。Tシャツにデザインされた『Слава Україні(ウクライナに栄光あれ)』というのは、彼とのやりとりで必ず最後に使っているフレーズなんですよ。ちなみに彼が住んでいるのはドニプロという地区。ロシア軍に制圧され、新市長が据えられたばかりです」

 一方でバースジャパンはロシア人デザイナーとも仕事を行っている。侵攻が始まって数日が経った頃、彼はFacebookのプロフィール欄にウクライナ国旗を添えた自分の顔写真をアップ。「ウクライナのみなさん、本当に申し訳ありません。ロシア国民であることを申し訳なく思います」と反戦を訴える投稿をしたという。だが「軍事の虚偽情報に最大15年の刑」というロシア国内の法改正があったため、その投稿もすぐさま削除された。

「本当にロシアが100%悪いのかどうはわかりません。アメリカは核実験をやめないし、NATOは勢力を拡大させている。プーチンからしたら『ふざけるな! 約束を破ったのはお前らのほうだろ!』とブチ切れたいところでしょう。ロシア側にはロシア側の言い分がありますから。でもだからと言って、相手の国を侵攻して罪のない子供たちを殺してもいいという理由にはならないわけですよ」

 かつて作家・開高健は「戦争に勝者はいない」と断罪した。石川社長も「政治的なことに首を突っ込む気は毛頭ない」としつつ、今回のTシャツ企画で集まったお金が適切に使われるよう細心の注意を払っているという。

「危険なのは『ロシア人を皆殺しにしろ!』という考えに偏っていくことなんです。ロシアにだって罪のない一般市民が大勢いるし、ロシア兵も演習だと騙されてウクライナに連れてこられたケースが多いわけですから。こうなると何が正義なのかわからない。だから今回のプロジェクトではウクライナの被災者を支援したいという気持ちはあるけれど、ウクライナ軍に加担するつもりは一切ないんです。あくまでも戦争支援ではなく、人道支援。赤十字だったら集まったお金が弾薬に変わることもないし、戦争の片棒をかつぐことにはならないはずなので」

 チャリティーTシャツは1枚3500円で販売されている。そのうち、日本赤十字を通じてウクライナ人道危機救援金に寄付される金額は1000円。通常、バースジャパンのTシャツは中国の業者に委託されることが多いのだが、今回は急ピッチでの作業となったため、国内業者を使用。作成にあたってはTシャツの素材代、プリント代、郵送代などの必要経費が派生し、中でも「型」と呼ばれる製版代がもっとも大きな比重を占めることになる。ただし型は1枚作っても1000枚作っても料金は変わらないため、ある程度のロッド数をクリアすると割安になってくる仕組みだ。なおバースジャパンは2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨でもチャリティ企画を開催したため、日本赤十字への献金はその際のノウハウを踏襲した。

「赤字覚悟とは言わないまでも、これで儲けようという気は毛頭ありません。正直、最初は60枚くらい売れたら御の字と考えていたんですよ。でも蓋を開けてみたら予想をはるかに上回る反響が寄せられて、うれしい悲鳴を上げています。慌ててレディースサイズの販売にも踏み切ったくらいですから」

 当初の予定よりも売れたことによって生じた利益は、PR活動や広告費に使う予定。具体的には楽天市場の中で目立たせたり、FacebookをはじめとしたSNSで広告を打ち世間にアピールしていく。少しでも多くの人に、この試みを知ってもらいたいからだ。
AUTHOR

小野田 衛


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