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UPDATE|2024/04/05

アカデミー最多受賞『オッペンハイマー』原爆開発後の重すぎる苦悩…胃が痛くなることを覚悟して鑑賞

(C) Universal Pictures. All Rights Reserved.

クリストファー・ノーラン監督最新作にして、第96回アカデミー賞において最多受賞を果たした『オッペンハイマー』がいよいよ日本で公開となった。

【写真】アカデミー賞最多受賞、『オッペンハイマー』場面カット【5点】

ノーランといえば、コロナ禍で多くの作品が劇場公開を見送り、配信に切り替えるなかで、最後まで劇場公開に拘り、映画を劇場で観ることの意義を伝え続けたことでも知られている。それもあって、今回のアカデミー賞の裏テーマであった「配信よりも劇場公開映画を!」に合致したことからも最多受賞は当然の流れだったといえる。

ティム・バートンが手掛けた『バットマン』(1989)の影響から、王道アメコミヒーローというイメージが付いていたバットマンを、原作通りの暗いトーンのノワールとして一新させた『バットマン ビギンズ』(2005)からなる「ダークナイト・トリロジー」や『インセプション』(2010)、『インターステラー』(2014)などといったメジャー映画監督・脚本家として知られているが、ノーランがSF要素などを抜きにして、人間ドラマを真正面から描くこと自体がなかなか珍しいことである。

近年の作品でいえば『TENET テネット』(2020)。それっぽいワードを並べて、SFっぽい作品にしていたものの、描きたいことはノーラン版「007」だったように、”誤魔化し”と”はったり”で構成することができないため、ノーランという映画作家の力量を改めて試された分岐点でもある。

とはいえ今作もすんなりと描いているというわけではなく、時系列を入れ替えるなどの”難解感”をもたせるのは、もはやノーランの作家性として受け入れるしかないといえるだろう。

そして今作で描かれるのは、「原爆の父」とされているJ・ロバート・オッペンハイマーの核開発と、その後の人生についてである。

去年、ジェームズ・キャメロンが原爆を題材とした作品制作を視野に入れているというニュースもあったが、原爆を題材にした作品は、今までにも何度か企画されながらも実現には至らないことが多い。ジェームズ・キャメロンの場合も「アバター」シリーズや海洋ドキュメンタリーの制作などのスケジュールの問題もあって、実際問題として難しい部分もあり、先送りにされてフェードアウトしていくのが毎回の流れだったりする。

そんな原爆についての作品をノーランが撮った勇気、そしてある種の使命感については、間違いなく評価するべき点である。

唯一の原爆投下被害国である日本にとっては、どの角度から描いてしてもセンシティブな内容であることは避けられない。さらに不運なことに同時期に公開された『バービー』や『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』なども含め、劇場公開作品をはしごして映画業界を盛り上げようというPR活動が裏目に出て、それがミームとなってしまった。それらが重なり、嫌な意味で話題になってしまい、あくまでアメリカ目線という視点が付きまとってしまっている。

先入観を持たないで観ないで欲しいというのも難しいのかもしれないが、今作でノーランが描こうとしたのは、オッペンハイマーというひとりの科学者による科学への”探求心”がもたらしたもの。そしてその先にあるもの。


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