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UPDATE|2023/02/10

【何観る週末シネマ】恋人と行くはずだった旅行が最悪の相手と相乗りに『コンパートメントNo.6』

(C)2021 -AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION

この週末、何を観よう……。今週公開の作品の中から、映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、2月10日(金)より公開されている、第95回アカデミー賞においてフィンランド代表に選出された『コンパートメントNo.6』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】アカデミー賞フィンランド代表『コンパートメントNo.6』の場面写真

〇ストーリー
モスクワから世界最北端駅ムルマンスクにあるペトログリフ(岩面彫刻)を見に行く予定だったラウラ(セイディ・ハーラ)は、大学教授の恋人イリーナ(ディナーラ・ドルカーロワ)にドタキャンされ、ひとりで旅立つことに。恋人がもう自分に興味がないことを薄々感じる失意の中、出発した寝台列車の同じ6号客室に乗り合わせたのは炭鉱労働者の男リョーハ(ユーリー・ボリソフ)。リョーハは出発早々に酒に酔いタバコをふかす粗野な振る舞いで、傷心のラウラにとって最悪な旅のはじまりとなる。しかし、旅を共にするうちに、お互いの不器用な優しさや魅力に気付いていく……。

〇おすすめポイント
カンヌ映画賞をはじめ多くの映画賞を受賞し、第95回アカデミー賞においてフィンランド代表に選出された作品。一緒に行くはずだった同性の恋人が急遽行けなくなり、ひとり旅をすることになった主人公ラウラ。

フィンランドにおいては、同性愛は80年代になって疾病リストから外され、90年代になって性的マイノリティに対しての差別が禁止されたわけだが、今作の舞台も90年代ということで、性愛差別がまだ少し残っている時代である。

直接的に同性愛を描いた作品ではないし、そこに焦点を置いた物語ではないのだが、恋人であるイリーナが知人にラウラとの関係を”友人”としか言っていないということにライラは違和感を持っている。

イリーナは知的で文学などにも詳しい大学の教授。考え方も寛容であるはずなのに、世間体を気にしているのか、それとも自分との関係が単なる一時的な遊びだと思っているからなのか、どちらにしても煮え切らない想いがあるのだ。

それに加えて、旅行に行けなくなったわけだから、自分との関係をそれほど大切に思っていないのではないだろうか……。そんな複数のモヤモヤを抱えながら仕方なく寝台列車に乗って、ひとり旅をすることに。

また最悪なことに、同じ客室のロシア人労働者リョーハは、デリカシーの無さやセクハラまがいな発言をしてくる男だったが、まだ携帯やSNSもない時代。気を散らす先がないまま、嫌な相手と共に旅をしなければならない状況にもイライラ。

普段はインテリ系の人々と付き合っていることもあって、全く違うタイプのリョーハを拒絶ながらも、仕方なく会話をしているうちに、逆に世間体など気にしない態度が新鮮にも思えて、ちょっと変わった友情関係が芽生えていく。

他人と簡単にアクセスすることのできない時代だからこそ、芽生えた関係性と列車に乗って見るロシアの雪景色を通して自分を見つめ直す、そんなロードムービーだ。

〇作品情報
監督・脚本:ユホ・クオスマネン
出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソ、ディナーラ・ドルカーロワ、
ユリア・アウグ、リディア・コスティナ、トミ・アラタロほか
2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語、フィンランド語/107分/カラー/シネスコサイズ/原題:Hytti nro 6英題:Compartment Number 6/映倫区分:G/後援:フィンランド大使館
配給:アットエンタテインメント
公式サイト:comp6film.com
2023年2月10日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

(C)2021 -AAMU FILM COMPANY, ACHTUNG PANDA!, AMRION PRODUCTION, CTB FILM PRODUCTION

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