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UPDATE|2023/02/25

怪演で話題・松本若菜、ブレイクまでの葛藤「“遅咲き”と言われてもこの速度ですごく良かった」

松本若菜 撮影/荻原大志

『やんごとなき一族』での怪演、『復讐の未亡人』でのクールな姿と、多彩な演技で魅了する女優・松本若菜。自身の誕生日に発売される“彼女のすべて”が詰まった初フォトエッセイ集『松の素』(KADOKAWA)発売を前に、芸歴17年・これまでの紆余曲折の日々から、この先に踏みしめる一歩について聞いた。

【写真】多彩な演技で話題、松本若菜の撮りおろしカット【10点】

高校時代に地元でスカウトされ、この世界への憧れを抱くも、その時は断念した。卒業後に4年ほど社会人生活を送る中、芸能の夢が再燃し、22歳で単身上京。この世界で生きていくと決心してから、17年の歳月が流れようとしている。

当時の松本が今の松本を見たら、今の活況は想像できただろうか? と問うと、「全くできません」と、まるで一文字ずつ噛みしめるように答えた。

「もちろんなりたい将来の自分の像はありましたが、それが実現しているとは想像もできなかった。32歳の時に『愚行録』という作品で、ヨコハマ映画祭助演女優賞をいただくまでの私は、『この世界にいてもいいの?』、『誰も見てくれないじゃん』と腐っていくばかりの日々を送っていました」

上京間もない2007年、『仮面ライダー電王』で佐藤健演じる主人公の姉・愛理役で華々しくデビューを飾った。2009年には初主演映画『腐女子彼女。』も公開され、順風満帆とも言える歩み。その後も想像できないことが待ち受ける日々。慣れない世界に戸惑うこともあったが、芯がブレることはなかった。

「地元で4年間、社会勉強していましたので、『自分はもういっぱしの大人だ』という感情を持っていましたし、これが自分の今の年齢で訪れる最後のチャンスだろうと飛び込んだので、『大変だ』とは思いつつも、決して焦ることはありませんでした」

それでも中々思うような結果は出ず、オーディションとアルバイトを往復しながらの雌伏の日々。松本曰く「暗黒期」が待ち構えていた。活動も気づけば10年目を迎え、「もう辞めようか」という言葉が頭をよぎる。その最中に出会ったのが『愚行録』だった。華やかで貞淑な表の顔の裏にひそむ高慢でどす黒い裏顔の両方を使い分ける、見事な演技が大いに評価された。自分の演技での達成感が、やっと結果に結びついたことが一筋の光明となった。

「やっとこの時に、『私を見てくれる人はちゃんといたんだ。やっぱり、自分の生きる道はここだ。これからは、この道で生きていけるよね』と、今の仕事を自分の居場所として初めて認識できて、やっと前向きになれました。同時に『腐っていた時期、もったいなかったな』と後悔もしました(笑)。それからも紆余曲折はたくさんありました。これからの人生、自分は明日どうなるかもわからないけれど、自分がいただいた役に今まで通り真摯に向き合い続けて、真面目にコツコツやっていけば、誰かは見てくれていると信じています」

松本の歩みほど「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉が似合うものはない。そう告げると、笑みを浮かべ、「その言葉、実は母からずっと言われ続けてきまして、昔から胸の中にその言葉を秘めているんです」と答えてくれた。

これまでの歩みを見れば一見地道に映る、だが堅実な一歩が松本の足元を強く固めていった。そのおかげか、これまでの自分の歩みも冷静に振り返られるようになった。

「中々仕事をいただけない時期について『暗黒期』と呼んでいたのは、今は少し違うかなと思うようになってきました。確かにオーディションに落ちまくって、バイトを両立しながらの仕事の日々は、『こんなはずじゃなかった!』とギャップに引き裂かれそうでした。ただありがたいことにその頃も、経験を積まなければできないだろうという役を演じられ、仕事場に行けばやはり成長していく瞬間を実感できて。何より素晴らしい役や脚本、監督、キャストの方たちには恵まれてきたんですよね。

つらいながらも、仕事は楽しいという感情が消えなかったことが、私がこれまで歩き続けられた要因だろうなって。今も不安ではあります。ただ、しっかりと自分らしくいられるように、常にスタッフが見守ってくれていたことがすごく大きいんです」

CREDIT

取材・文/田口俊輔 撮影/荻原大志


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