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UPDATE|2023/04/14

【何観る週末シネマ】宗教による屈折した信仰が生みだした殺人鬼『聖地には蜘蛛が巣を張る』

(C)Profile Pictures / One Two Films

この週末、何を観よう……。今週公開の作品の中から、映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、4月14(金)より公開されている『聖地には蜘蛛が巣を張る』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】『聖地には蜘蛛が巣を張る』場面写真

〇ストーリー
聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。

〇おすすめポイント
『ヘンリー』(1986)や『ザ・バニシング/消失』(1988)、『ハウス・ジャック・ビルド』(2019)などなど、殺人鬼目線の作品はいくつかあるし、今作もそうなのだが、今作が決定的に他の作品と異なるのは、徹底的に殺人鬼の心情に寄り添うことで、宗教による屈折した信仰が恐ろしい犯罪者を生み出してしまう構造そのものに足を踏み入れていることだ。

今作の舞台となっているのはイランのマシュハド。国自体の根底に宗教がある国では、宗教概念に合わない者は迫害される風潮にある。イスラム教にとって、そもそも売春自体が重罪とされていることもあり、次々と娼婦が殺害されていく事件がストレートに殺人事件として捉えられるとは限らない。犯人の目的も”殺人”ではなく、”浄化”なのだ。

国自体の問題でもある貧困や格差によって、娼婦をしなければ生活ができないという負のサイクルではあるが、イスラム教的には、売春行為を容認するわけにはいかない。しかしその一方で国や政府の立場、外交的、人権的な立場として、殺人事件を放置するわけにもいかないという状況。警察や裁判官のモチベーションが怪しいという複雑なお国事情が見え隠れするのもイランならでは……なのだろうか。

実際に今作は、犯人が逮捕されておしまいというわけではない。前半はサスペンスのように描かれるが、後半では国や宗教の根底にある闇そのものを描いていることもあり、少し毛色が変わってくる。

宗教の信仰、そしてその解釈のしかた、捉え方の違いで、神の名のもとに犯罪に手を染めていながら、それを正義や使命だと信じて疑わない危険な思想が受け継がれ続けているテロリズム構造を描いているようにも感じられるのだ。

〇作品情報
監督・共同脚本・プロデューサー:アリ・アッバシ(『ボーダー二つの世界』)(または監督:アリ・アッバシ(『ボーダー二つの世界』)出演:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ原題:「Holy Spider」/2022年/デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス/ペルシャ語/シネスコ/5.1ch/118分/字幕翻訳:石田泰子/デンマーク王国大使館後援/映倫:R-15
HP:gaga.ne.jp/seichikumo
配給:ギャガ
4/14(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開

(C)Profile Pictures / One Two Films

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