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UPDATE|2023/06/02

【何観る週末シネマ】フランソワ・オゾンが敬愛するファスビンダーの名作リメイクに挑戦『苦い涙』

(C)2022 FOZ -France 2 CINEMA -PLAYTIME PRODUCTION©Carole BETHUEL_Foz

この週末、何を観よう……。今週公開の作品の中から、映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、6月2日(金)より公開される『苦い涙』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】フランソワ・オゾン監督『苦い涙』場面写真

〇ストーリー
著名な映画監督ピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は、恋人と別れて激しく落ち込んでいた。助手のカール(ステファン・クレポン)をしもべのように扱いながら、事務所も兼ねたアパルトマンで暮らしている。ある日、3年ぶりに親友で大女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)が青年アミール(ハリル・ガルビア)を連れてやって来る。艶やかな美しさのアミールに、一目で恋に落ちるピーター。彼はアミールに才能を見出し、自分のアパルトマンに住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けするが…。

〇おすすめポイント

『Summer of 85』(2020)以降、より強いかたちで原点回帰と新境地の開拓を目指し、自分の映画作家としてのルーツへの探求を重ねているフランスの名監督フランソワ・オゾン。

そんなオゾンが敬愛し、自分の作品のお手本とまで言っているほど大きな影響を受けたのが、ドイツの映画作家ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。そのファスビンダーによる名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972)のリメイクに挑戦したのが今作である。

オゾンは2000年にもファスビンダーの戯曲を原作に『焼け石に水』という作品を制作しているが、リメイクというかたちは今回が初めてだ。

『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』の場合は、主人公はタイトルの通りペトラという女性であったが、今作では男性に置き換えられており、リメイクでありながらオゾン自身のオリジナリティとして、自分に近い存在としてキャラクターたちを再構築している。

ちなみに『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』でカーリンを演じていたハンナ・シグラも別の役として出演している点にも注目してもらいたい。

また今作は、少し特殊な構造の作品になっているのも興味深い。それは主人公の視点ではなく、主人公ピーターのアシスタントとして付きっ切りで面倒をみているカールの視点から描かれいることだ。

カールにはセリフが用意されておらず、そこに存在しないものかのように扱われながらも、いなければ成り立たないキャラクターである。

乙女のように恋に溺れ、若い男にいいようにもて遊ばれる中年男性を目の前にして、「何してるんだ、このおやじは」というような目線でピーターを見ているカールの目線がときどき突き刺さったりもするが、それは世間からの目そのものでもあり、私たち観客の目線ともリンクしてくるのだ。

才能への憧れがあるからこそ、酷い扱いをされていてもその場に留まり続けていたカールだが、その目線を通してピーターの堕落をサスペンスのようでもあり、コメディのようにも描いた、フランス版「家政婦は見た!」といったところだろうか。

〇作品情報
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:ドゥニ・メノーシェ、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマント・オディアールほか
原題:PETER VON KANT/2022/フランス/フランス語・ドイツ語/シネスコ/5.1ch/85分/日本語字幕:手束紀子/PG12
配給:セテラ・インターナショナル  
公式サイト:www.cetera.co.jp/nigainamida
6/2(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(C)2022 FOZ -France 2 CINEMA -PLAYTIME PRODUCTION©Carole BETHUEL_Foz

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