FOLLOW US

UPDATE|2024/01/05

【何観る週末シネマ】『ノセボ』異国文化の異質感や不安定さの先に行き着くのは、ある社会問題だった

(C) Lovely Productions Limited / Wild Swim Films Limited MMXXII. All Rights Reserved.

この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、12月29日(金)より公開されている『ノセボ』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】副作用をホラーコーティング、映画『ノセボ』場面写真【8点】

〇ストーリー
ファッションデザイナーとして名を馳せるクリスティーン(エヴァ・グリーン)は、夫のフェリックス(マーク・ストロング)と幼い娘のボブス(ビリー・ガズドン)とダブリン郊外で悠々自適に暮らしていた。ある日、仕事中にクリスティーンはダニに寄生された犬の幻影に襲われる。8 ヶ月後、クリスティーンは筋肉の痙攣、記憶喪失や幻覚などを引き起こす原因不明の体調不良に悩まされていた。そんな彼女の前に、ダイアナと名乗るフィリピン人の乳母が現れる。彼女は雇った覚えのない乳母を最初は怪しむが、ダイアナは伝統的な民間療法を用いてクリスティーンの治療にあたり彼女の信頼を得ていく。やがてクリスティーンは民間療法にのめり込んでゆくが、それは一家を襲う想像を絶する悪夢の始まりだった……。

〇おすすめポイント
『ビバリウム』で強烈な作家性を世界に知らしめたロルカン・フィネガンが、またも独特の世界観で社会問題を描いた風刺作。

キャリアウーマンで仕事も順調だったクリスティーンの日常が徐々のおかしな方向に変化していく。幻覚や体調不良が続き、精神も不安定。そんなときに突然現れたダイアナによる怪しすぎる民間療法によって、一度は回復に向かうが、そこには思わぬ副作用”ノセボ”と結末が待っていた。

実はこの作品、治療による副作用とされるノセボ効果をホラーコーティングしたものであり、異国文化の宗教への屈折依存や言い伝え、先住の知恵などにある異質感や、そこにある不安定さを織り交ぜながら描いていて、その部分だけでもクリスティーンの不安感を体感していく作品として、クセのある良い作品なのだが、全体を通して観ると、冒頭に書いた通り、ある社会問題に行き着くことになる。

そこで世界中で報道されたある事件を思い出すはずだ。それは2013年世界中のファストブランドの受注を受けていたバングラデシュの縫製工場が入った商業ビル「ラナプラザ」崩壊事件。

今作の場合は、バングラデシュではなく、フィリピンが舞台になっているものの、ほかにもパキスタンや日本でも大きく報道されたウイグルなど、ファストファッション業界の影にある、労働者たちの過酷労働に見合わない低賃金やずさんな管理体制がもたらした悲劇を誇張して描いている。

怒りの矛先が個人に向き過ぎているという、少し逆恨み感は強いものの、そこまで強烈なインパクトで描かなければ、世界は気づかないという強いメッセージ性も感じるはず。

そういった現状をなんらかのかたちで、なんとなくでも伝わっているはずなのに、ファストファッションを愛用している日本人にとっても、決して他人事ではない身近な問題を扱っているともいえるのだ。

(C) Lovely Productions Limited / Wild Swim Films Limited MMXXII. All Rights Reserved.

〇作品情報
監督:ロルカン・フィネガン
脚本:ギャレット・シェインリー
出演:エヴァ・グリーン、マーク・ストロング、チャイ・フォナシエ、ビリー・ガズドンほか
2022年|アイルランド・イギリス・フィリピン・アメリカ|カラー
ヨーロピアンビスタ|5.1ch|97分|英語
日本語字幕:平井かおり|原題:NOCEBO|レイティング:G
配給:クロックワークス
公式サイトhttps://klockworx-v.com/nocebo/
12月29日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

【あわせて読む】有村昆が選ぶ2023年映画ベスト10「坂元裕二さんの脚本が圧倒的、真実は多重構造の中に」

RECOMMENDED おすすめの記事