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UPDATE|2024/02/02

ウディ・アレン節?それとも老人の愚痴?スキャンダル以降の現在地『サン、セバスチャンへようこそ』

『サン、セバスチャンへようこそ』

映画界の皮肉屋ウディ・アレンが2020年に制作した『サン・セバスチャンへ、ようこそ』がついに日本公開。今作は、スペイのバスク地方で行われるサン・セバスチャン国際映画祭と、その周辺を舞台とした物語であるが、同映画祭でプレミア上映された作品でもあるのだ。

【写真】若い妻の不倫を心配する男…『サン、セバスチャンへようこそ』場面写真【13点】

そのため少しメタ的な要素もある。それでいて映画業界への皮肉をぐちぐちと言っている内容ということもあり、現地で観た場合は、より身近なものとして感じられたのかもしれない。言ってしまえば内輪ノリの強い作品ではあるがそれもウディ作品の良さともいえる。

ウディ・アレンといえば、映画界の皮肉屋。常に自分自信の女性関係や生活環境、そして映画業界などに対しての皮肉というよりも、一方的視点からの愚痴というべきだろうか、作品を通して愚痴を描き続けてきた。実際にウディ自身が主演を務めることもあれば、役者に演じさせることもあったりするが、全体的な構造はいつも同じである。

それが良いと感じるか、もしくは老人の個人的愚痴を聞かされているだけと思うのかは、人それぞれである。時代にそぐわない男尊女卑な部分は実際にあるため、その点も好みは別れるだろうが、それもウディの個人的視点や妄想の映像化と思えば、あくまで個性として楽しむことができた。

ところがハーベイ・ワインスタインの性加害問題への告発をきっかけとして強化された「#MeToo」運動の影響によって、過去のパワハラや性加害問題が明るみとなった。ウディは事実でないと反論しているものの、世間からの評価と、これまでの作品、そして未来に作られる作品への影響は大きく、あくまで作家性と捉えられていたウディの描く女性への視点がフィクションとして観られなくなってしまった部分はどうしてもあるため、ウディの作家性としては絶望的ともいえる。

例えば、ウディにとっては珍しく、セレーナ・ゴメスやティモシー・シャラメといった、ティーンムービーのような若者うけするキャスティングで現代社会のフラットな恋愛観や価値観を描いた『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2020)もその影響を避けられず、アメリカでは公開中止となってしまった。実際に映画業界の権力者による性加害を連想させるようなシーンもあったり、出演者が出演を後悔する発言をしたりで、もはや恋愛映画、とくに映画業界を舞台としたものは、かなりアウェーな状態となることが避けられないのが現状である。

そんななかで制作されたのが、今作であるが、こともあろうか今作も映画業界を舞台とした作品となっているのは驚かされる。


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