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UPDATE|2022/06/25

「プーチンは退かない」軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏が見てきたプーチン・ロシアの本質と野望

写真◎getty images



 このようにシリアやクリミアなどで色々やってみても、オバマ政権は強い介入をしなかったため、ロシアは自らの勢力圏を拡大しました。これがプーチンにとっての成功体験になったわけです。

 ただし、こうしたプーチンの不正で強権的な勢力拡大は当然ながら西側諸国から非難されます。欧米メディアでも、プーチンは放っておいたら何をするかわからない独裁者だという評価が定着しました。イギリスでの軍用毒物を使った亡命者暗殺未遂なども起こしていますし、米国の大統領選でのフェイク情報を使った世論誘導工作なども明らかになりました。ウクライナ侵攻以前から、プーチン政権の危険性はもう隠しようがないものになっていました。

――しかし、アメリカがロシアを付け上らせた、という一面も否定できないようですね。

 ブッシュ政権の後、ロシアはオバマ政権・トランプ政権が“世界の警察”の役割を放棄したことに付けこんで、自らの勢力圏を広げてきました。ところがバイデン政権は人権擁護や西側の結束を旗印に、ロシアの勢力圏拡大に対抗する姿勢を見せてきた。プーチンとすれば、今のうちにウクライナを手に入れようと判断したものと思われます。

 プーチンは老化、あるいは病気で合理的な判断ができなくなったのだろうといった言説がウクライナ侵攻後に散見されますが、私はそうは思いません。おそらく彼は軍や情報機関から報告された間違った情報分析を元に今回のウクライナ侵攻を発動したものと推測されますが、強権的な手法で強引に他者を蹂躙する行動パターンはもともとのものです。彼はきわめて悪い意味で信念が強く、これまで常に勝利してきました。ウクライナでの苦戦は初めての計算違いでしょうが、彼がそれを認識して退くことができるかは別問題です。そこにこの惨禍を容易に終わらせられない難しさがあります。

▽『プーチンの正体』(宝島新書)
著者:黒井文太郎
発売日:5月27日
定価:880円(税込)

【後編】「信頼できる親日家」軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏が語るプーチンを誤解し続けた日本の政界とメディア

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