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UPDATE|2023/12/23

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はなぜ口コミ人気が爆発した? 最高で最悪だった“鬼太郎オリジン”の衝撃

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』鬼太郎の父&水木のビジュアル(公式Xより)

11月17日から公開が始まったアニメーション映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が、口コミで大ヒットを記録している。SNS上では「ゲ謎」という略称が広まり、興行収入が3週にわたって右肩上がりを描く異例の事態も話題を呼んだ。この熱気は一体どこに由来しているのだろうか。

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同映画は、TVアニメシリーズ『ゲゲゲの鬼太郎』の第6期と世界観を共有した作品。しかしこれまでアニメや原作で描かれたことがなかった、“鬼太郎の誕生前夜”に迫った内容となっている。いわば「ゲゲゲの鬼太郎オリジン」とでも呼ぶべき野心作だ。

そこで物語の主役に据えられたのが、「鬼太郎の父」と水木という2人の男。鬼太郎の父といえば目玉おやじだが、今回描かれたのは彼が人間だった頃の話なので、よく知られるマスコットキャラクターのような姿ではない。劇中では、とあるきっかけから「ゲゲ郎」という愛称で呼ばれることになる。

他方で水木は、原作『ゲゲゲの鬼太郎』やその前身となる『墓場鬼太郎』から登場していたキャラクターだった。原作では血液銀行に勤務するサラリーマンにして、後に鬼太郎の“育ての親”となる人物だが、このあたりの設定が同映画にも上手く取り入れられている。

大まかなプロットとしては、昭和31年の哭倉村(なぐらむら)という呪われた地でゲゲ郎と水木が出会い、邪悪な一族と対峙していくという流れ。一言で説明すると、和風ホラーの世界観で繰り広げられる「バディもの」だ。

定番のジャンルではあるものの、その完成度はきわめて高い。最初は険悪な雰囲気から始まりつつも、徐々に仲が進展していく王道の展開となっており、「バディもの」として観客から期待されるものを完璧に表現している。

キャラクターの設定も魅力的で、一方の水木は出世欲に駆られたリアリストの典型のような人物。他方でゲゲ郎は、“見えないものが見える”とうそぶく浮世離れした存在であり、対照的な描き方だ。しかし水木は戦時中、兵隊として地獄を見た過去があり、ゲゲ郎も幽霊族の末裔として重い宿命を背負っている。表面的には正反対でありながらも、底の部分では共鳴する部分があるという、巧みな構図と言えるだろう。

こうした設定はほとんど同映画のオリジナルなので、『ゲゲゲの鬼太郎』に関する予備知識がない人でも問題なく楽しめる。だからこそ水木とゲゲ郎の“関係性”に魅了されるファンが続出し、その評判を聞いた人が新たに劇場へと足を運ぶ……というポジティブな連鎖が起きたのではないだろうか。

さらに口コミ人気が爆発した理由は、心をえぐられるようなハードな展開とも無関係ではないはずだ。


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