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UPDATE|2024/03/28

明日最終回、『ブギウギ』で福来スズ子(趣里)が切り開いた”泥臭い”朝ドラヒロインの魅力

日帝劇場・舞台にて。「さよならコンサート」で歌手人生最後のショーを披露する福来スズ子(趣里)。3月29日(金)放送の最終回より。写真◎NHK



第25週「ズキズキするわ」では、股野(森永悠希)と礼子(蒼井優)の娘である水城アユミ(吉柳咲良)に「『ラッパと娘』を歌いたい」と、宣戦布告をされてしまった。タケシ(三浦りょう太)がとっさに「ありえない!」と言ったように、多くの視聴者も「それは何だか嫌だ」と思ったことだろう。

我らが福来スズ子ならば、水城アユミに対して「それはアカン」「ワテの歌や」と言いそうなものだが、この時のスズ子は「羽鳥先生に聞いてみないと…」と善一を盾にして逃げてしまった。「本当は歌ってほしくない」というズキズキした気持ちや、「水城さんの方が上手く歌ったらどうしよう」という、少し子どもじみたとも言える感情を、つい隠してしまったのだ。

素直に「嫌だ」と言えなかったことへの恥ずかしさ、善一に「僕がいいって言えば、君はいいのかい」と痛いところをつかれた後ろめたさ…決して綺麗とは言えないような感情をここまで描いてしまうのか、と正直驚いた。そして最後の最後まで”泥臭さ”と戦うスズ子の姿は、舞台に立っているときと同じくらい輝いて見えた。

そんなスズ子が歌合戦の舞台で選曲したのは、「ヘイヘイブギ―」だった。スズ子が自分自身に向き合い続け、弱さや不完全さを認めることができたからこそ「あなたも私も笑って暮らそよ」と、弱い部分を持つ人々にも優しくいられる。劇団からお金を持って逃げた五木ひろきも、ヘマばかりだったタケシも、愛子を誘拐しようとした小田島も、スズ子を何度も悩ませた鮫島も、なかなか友達ができなかった愛子も、そして自分自身も「笑って暮らせればそれでいいじゃない」と、訴えかけていたのかもしれない。

半年間の物語の中で、スズ子はどんどんと強く逞しくなり、時には泥臭い感情をあらわにしながら、艶やかにステージを彩った。華やかな舞台シーンにも元気と勇気をもらったが、それ以上に未熟な部分がありながらも懸命に人生の選択をする姿に励まされた。

スズ子は完璧なヒロインではなかったかもしれないが、その不完全さがスズ子の魅力であり、どの人間も不完全だからこそ、誰かに何かを伝えることができる。それに、輝いて見えるあの人も、見えないところで泥臭い気持ちと戦っているのかもしれない。

不完全なスズ子がステージに立ち、自らをさらけ出す。不完全でもヒロインになれる。物語の主人公になれる。福来スズ子は、これからの朝ドラ史に名を刻むヒロインになったことだろう。

【あわせて読む】『金八先生』から朝ドラ『ブギウギ』主演まで…新時代の演技派女優・趣里のキャリアを辿る
AUTHOR

音月 りお


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