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UPDATE|2022/06/25

「信頼できる親日家」軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏が語るプーチンを誤解し続けた日本の政界とメディア

写真◎getty images


――日本では今次のウクライナ侵攻で、プーチン政権の体質への見方がようやく変わった、ともいえそうです。

 今まで、ロシアから見れば欧米と違って日本は勝手になびいてくれる相手でした。欧米相手にはフェイクニュースなども駆使した世論誘導工作を繰り返していたのですが、日本はそんなことをわざわざしなくても、領土交渉への期待をチラつかせるだけでよかったのです。

――他にも、ネットカルチャーの中で柔道が趣味の親日家で、力強い指導者として好意的に見られてきた風潮もありました。

 ネット世論でいうと、日本では中国の習近平政権に対する警戒心が圧倒的に強く、それに比べるとプーチン政権に対する警戒心はあまりなかったように見えます。中国と対抗するにはむしろロシアとは友好的な関係を結ぶべきという言説もありましたし。でもロシアは民主主義や自由、人権擁護というか価値観への脅威という点ではむしろ中国の側です。

 プーチン政権にとって主敵な米国を中心とする西側世界なので、米国の同盟国である日本は明確に敵側になります。ところが日本側の一部では、中国と対抗するためにロシアと手を結ぶとか、少なくともロシアと友好関係を作れば中国とロシアの連携を阻止できるという期待があったようです。しかし、それは非現実的です。

 いずれにせよ、日本では一般のメディアを含めて、中国への警戒感が強く、プーチン政権の危険性はそれほど重視されてきませんでした。私は機会があればメディア出演時にプーチン政権の危険性を指摘するように心がけてはきたのですが、おそらく反ロシアに偏向した意見のように受け取った方も少なくなかったのではないかなと思います。

 というか、そもそもあまりロシアの脅威への関心があまりなかったのかもしれません。たとえば本書もじつはトランプ政権のロシアゲートが注目されていた2017年頃に一度考えたのですが、当時の出版界は概ね「プーチンは地味なので、習近平をやりませんか?」という反応でした。

――欧米でも「親プーチン」は今も根強くいるのでしょうか。

 欧米で厄介なのは、プーチンは極右層に人気があるんです。彼らは極端なトランプ支持者や「Qアノン」などの陰謀論の陣営とも親和性が高い。それはロシアのネット工作のせいでもありますし、自国の政官界のエリート層、エスタブリッシュへの反発から親プーチンになびいている一面もあります。

――そうしたプーチン政権のプロパガンダやネット工作についても「プーチンの正体」で書かれていますが、プーチン本人についてもどこまでが作られたイメージなのかわからなくなってきます。

 プーチンの人物像は後から作られたイメージも多く、どこまでは実像かはわかりません。ただ、彼は自分の考えをかなりメディアで公式に発信しています。それはどこまでがホンネかはわかりませんが、彼の発する言葉は、彼が進める強権的な策を正当化するための布石となるよう緻密に計算されています。

 その内容は詭弁と欺瞞に満ちたものですが、それでも自己正当化を必ずします。そのあたりの処し方は、じつにソ連共産党的だなと思います。

▽『プーチンの正体』(宝島新書)
著者:黒井文太郎
定価:880円(税込)

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