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UPDATE|2023/01/07

山口恵梨子女流二段が語る、藤井聡太王将VS羽生善治九段「棋士とは何か将棋の強さとは何かが問われる」

山口恵梨子 撮影/松山勇樹



──羽生九段はここ最近タイトル戦からは遠ざかっていましたが、やはり古参ファンからすると今回のタイトル挑戦はうれしいものがあります。

山口 私はそれには年齢的な衰えといったものではない理由があると思っていて。羽生先生がタイトルを失ったのは、AIソフトの使い方を模索している最中でタイトルを失ったのではないか、と。

──使い方の模索ですか。

山口 はい。今回のタイトル戦挑戦は、羽生先生が自分の個性を出しつつ、AIソフトとのうまい付き合い方をご自身の中で導きだしたのではないかと思っています。今のAI全盛の時代に自分の将棋を追い求めるのは修羅の道なのですが、羽生先生はそれを達成されたのではないかという見方もできるんじゃないでしょうか。

──AIとの共存共栄の道を見つけたのかもしれないと?

山口 そうですね。なので羽生先生のファンには、その「棋士の矜持」といったものも見てほしいなと思います。対して藤井先生のファンからすると、羽生先生は藤井先生が八冠を目指す上で倒さなくてはならない天才になるのかなと。

──一方の藤井五冠は、もう異次元の強さを感じます。棋界全体が藤井五冠を中心に回っている印象でした。

山口 藤井先生は現在5つのタイトルを有する五冠ですし、メチャクチャ強いんですよ(笑)。ここ1年でいうと、藤井先生はタイトル戦の番勝負の後半戦に行ったことが一度しかないんです。前半戦ですべて勝ち越している。さらに藤井先生はタイトルの挑戦権を得たら、その後100%タイトル奪取しています。将棋ファンの方の中には、藤井先生がいつ八冠を取るのかという見方をされている方もいますね。もちろんほかの棋士としては、何としても藤井先生を止めようとしているわけですが(笑)。絶対強者に対する戦い方を、みんなが模索している時期なのかなと思います。

──将棋ファンからすると、藤井五冠の八冠達成が見たいし、羽生九段のタイトル通算100期も見たいので、どっちにも勝ってほしい心理がありますね(笑)。

山口 ですよね(笑)。先手で勝つと勢いに乗れるのと、藤井先生は先手番の勝率が尋常じゃないので、対局前の振り駒(先後番を決める方法)が重要かもしれません。ぜひそこにも注目していただければより楽しめるかと思います。

──ほかに王将戦の見どころなどはありますか?

山口 食べ物ですね。対局は長時間なので昼・おやつ・夜と食べる時間があり、そこで棋士は勝つために食べるんです。そんな「勝負めし」にも注目してもらいたいですね。特に地方での対局の場合、地元の名産を選ぶ棋士の方も多いですよ。藤井先生や羽生先生は特にその傾向があるので、注目してもらえたら。あと対局以外のところでいうと、王将戦ってコスプレ写真があるんですよ。

──コスプレ?

山口 昔から勝った方が勝利者記念写真といってコスプレをして写真を撮るんです。ファンの間では「勝利者罰ゲーム」と呼ばれていたりするんですけど(笑)。藤井先生が食い倒れ人形になっていたり、電車の車掌さんになったり、以前は羽生先生がドジョウ掬いの格好をしたり。みなさんが対局地域・場所にちなんだコスプレを披露してくれるんです。なので、そこもぜひ楽しみにしていてください(笑)。

(取材・文/中村佳太)

▽山口恵梨子(やまぐち・えりこ)
1991年10月12日生まれ、鳥取県出身。堀口弘治七段門下。日本将棋連盟所属の女流二段。激しい攻め将棋の気風から“攻める大和撫子”の異名を持つ。ゆるふわコミックエッセイ『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々』(竹書房)が現在2巻まで発売中。
CREDIT

取材・文/中村佳太 撮影/松山勇樹


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