SNSやマッチングアプリなどで別人になりすまし、言葉巧みに金銭を騙し取る「国際ロマンス詐欺」が社会問題化している。被害額が甚大なケースが多いことに加えて、信じていた相手に裏切られることは、被害者の心に大きな傷を残す。犯人たちはどんな人物なのか、なぜ被害者たちは騙されて多額の金銭を注ぎ込んでしまうのか。被害者への綿密な聞き取り取材にくわえて、犯人の素顔に迫るために西アフリカのナイジェリアまで飛び、実際に何人もの実行犯と対面してその正体を暴いた『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館刊)を刊行した水谷竹秀氏に話を聞いた。(前後編の前編)
【写真】『ルポ 国際ロマンス詐欺』著者の水谷竹秀氏「在日のナイジェリア人の方々に、国際ロマンス詐欺の犯人たちに取り次いでくれないかとお願いして取材対象者を探していたんですが、なかなか自力で辿り着くのは難しいという状況でした。そんな中、ナイジェリアでサイバー詐欺の研究をしているアダム教授(仮名)の存在を知ったんです。
現地では、ロマンス詐欺の犯人たちは『ヤフーボーイ』と呼ばれているんですが、日本の僕とナイジェリアのアダム教授とで、ビデオチャットで話したところ、教授がいる教室には何人かの生徒がいて、『この子たちは僕の生徒で、ヤフーボーイだよ』と、ものすごく気軽な感じで。学生たちがアルバイト感覚でやっていることに、驚きました」
被害額の多さや、その巧妙な手口から、バックにはさぞや巨大な犯罪組織がついていると思いきや、国際ロマンスを行っているのは、10代、20代の若者たちだったのだ。
「ナイジェリアで犯人たちと対面して、温度感が全然違うと思いました。日本で取材した被害者は、僕の目の前で泣いたり、怒り心頭だったり、気軽に質問できるような状況ではなかったのですが、ナイジェリアの加害者たちは、まるで深刻な感じはなくカジュアルで、かなりギャップがありました。彼らにはそれほど罪悪感がないんです。被害者がどうなっているのかという状況を知らないわけですよ。
例えば、国際ロマンス詐欺に遭って自殺をしてしまった被害者がいたらどう思うか、と尋ねたところ、犯人は『死ぬほどのことじゃないんじゃないか』と言うわけです。彼らは、遠い国の人から被害を受けたといわれても、他人事にしか思わないんじゃないのかな、と」
所詮は他人事としか思えない要因として、ナイジェリアの貧困問題があるという。
「貧困問題はかなり深刻です。ナイジェリアの最低賃金ってひと月40ドルとかそれくらい。僕はフィリピンで10年以上生活していて、スラムにもたくさん行きましたけど、その比じゃないくらいナイジェリアにはスラムが多い。貧困を犯罪の言い訳にすべきではないんだけど、ナイジェリアの現実を見てみると、そんな単純でもないなって。ルフィの事件でも、日本人の若者が加担したと報じられていましたが、そういうノリともちょっと違う現実が向こうにはあるなって思いました」
そもそもナイジェリアには、国際詐欺を繰り返してきた歴史がある。
「80年代から国際詐欺の歴史があって、有名なのは『ナイジェリアの手紙』ですね。政府高官や王族を名乗る人物が『多額の秘密資金を持っているのだが、国外に持ち出したい。口座を貸してくれないか』という手紙を各国の企業に送りつけ、手数料と称して金銭を取る手口の詐欺です。日本人もターゲットにされて被害にあっています。最初は封書の手紙だったのですが、ネットの発達によってEメールになって、いまはSNS。
ツールを変えながら脈々と続いてるんです。日本のオレオレ詐欺なんかにもマニュアルやターゲットのリストがあると思うんですが、国際ロマンス詐欺のマニュアルみたいなものも、犯人たちの間で共有されています」
そのマニュアルはネット上の、誰でもアクセス可能な場所に存在しているという。始めてみようと思えば、誰でも始めることが可能であることも、ナイジェリアの若者がロマンス詐欺に手を染める呼び水となっている。