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UPDATE|2024/03/29

貧国と介護、逃げ出せない社会問題を詰め合わせた鬱映画『ビニールハウス』

映画『ビニールハウス』



誰に助けを、どこに助けを求めるのかもわからないし、それをどうやって声に出して言うのかもわからなくなってしまっている。

行政というものは、「なぜもっと早く言ってくれなかった」と言う割には、その方法を教えてくれたり、寄り添うことは積極的にはしてくれない。

映画だから、ブラックユーモアだからと言ってはいられないほど現実と直結する物語。そして誰もが突然そうなってしまうかもしれないところに何にも替えがたい恐怖がある。

とにかく、かなりの鬱映画。不幸の詰め合わせ映画だ。

今作の全体的な印象を強烈なものとしているのは、『SP 国家情報局:Mr.ZOO』(2020)や『悪女/AKUJO』(2017)などで知られる名女優のキム・ソヒョンが、終始死んだ目で演じるムンジョンの、社会に”存在していない”という存在感だ。

そしてイ・ソルヒにとっては、今作が長編初監督デビュー作というのも驚きだ。
ところがこれまでに撮ってきた短編のテーマとしては共通性がある。それは、とにかく人間の暗部を映し出したものであるということ。

監督自体もそういった作風と言っているだけに、今作は集大成として、ここぞとばかりに人間や社会の暗部が描かれているのだろう。

作品自体に希望は残らないものの、イ・ソルヒという監督が、次回はどんな闇を描くのかという期待は確実に残している。

【ストーリー】
ビニールハウスに暮らすムンジョンの夢は、少年院にいる息子と再び一緒に暮らすこと。引っ越し資金を稼ぐために盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。そんなある日、風呂場で突然暴れ出したファオクが、ムンジョンとの揉み合いの最中に床に後頭部を打ちつけ、そのまま息絶えてしまう。ムンジョンは息子との未来を守るため、認知症の自分の母親を連れて来て、ファオクの身代わりに据える。絶望の中で咄嗟に下したこの決断は、さらなる取り返しのつかない悲劇を招き寄せるのだった……。

【クレジット】
監督・脚本・編集:イ・ソルヒ
出演:キム・ソヒョン、ヤン・ジェソン、シン・ヨンスク、ウォン・ミウォン、アン・ソヨほか
2022年/韓国/韓国語/100 分/カラー/2.39:1/5.1ch 
原題:비닐하우스 
字幕:大塚毅彦 
配給:ミモザフィルムズ
© 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
【公式サイト】https://mimosafilms.com/vinylhouse/
3/15(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

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