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UPDATE|2024/05/22

なぜ今の政治家はなぜ物足りないのか? 田中角栄の言葉が人を惹きつけた理由

小林吉弥氏の最新著書『甦れ 田中角栄 人が動く、人を動かす 誰でも分かる「リーダー学」入門』(日本ジャーナル出版)


 父親としての角栄は、厳しく突き放すだけでなく、どこか人間臭くて憎めないところがあった。たとえ相手が年下であっても、「すまん。昨日は俺が間違えていた」と謝ることもできる素直さは多くの関係者が認めるところ。存在自体が親しみやすいので、幅広い層から人気を集めたのだろう。

「自分の才覚だけで底辺からのし上がってきたという自信の裏付けがあるんでしょうね。ある意味では今よりも学歴が重んじられた時代に、高等小学校しか出ていなかったわけで(本人は中央工学校を最終学歴と主張)。やっぱり学歴コンプレックスは強烈にあったと思う。社会に出てからも、専門学校にいくつも通いながら必死に学を身につけようとしていましたし」

 往年の角栄は、大蔵省などの高級官僚の前に出るとメラメラとした敵愾心を隠そうともしなかったという。「こいつらに負けてたまるか。お前らは恵まれた環境の中で有名大学まで進んだのかもだけど、こっちは泥水をすすりながら這い上がってきたんだぞ」という負けじ魂があったことは想像に難くない。二世議員、三世議員ばかりになった現在の自民党とは正反対のメンタリティといっていい。

「そのへんは愛弟子の小沢一郎と比較するとわかりやすい。彼の父は安保闘争で活躍した小沢佐重喜。大物政治家です。一方の角栄は父親が博打ばかりやって、母親はひたすら田んぼで汗水垂らして働き、それでお金がなくなると親戚にお金を借りるような生活。そこで罵声を浴びながら感性が磨かれていったたわけです。もちろん貧乏な育ち方をしても全員が角栄みたいになれるわけじゃないけど、そこは持って生まれた感受性の強さがプラスに作用したということなんだと思う」

 一方、小沢は自民党を2回も下野させ、“壊し屋”として剛腕をふるったが、現在は高齢も手伝ってか求心力を失いつつある。小林氏は「彼は他人へのフォローが苦手なタイプ。すぐ切って捨てる。だから人がついてこないのでは」と指摘した。

「私が永田町取材をスタートさせたとき、角栄は幹事長でした。55年体制まっただ中だったので、当時の自民党は社会党と激しく対立していたものです。ところが驚いたことに、そんな社会党の中からも『自民党でもあの人だけは特別』『角さんが言うんじゃしょうがない』と評価する声が少なからずあった。まるで“影の同志”みたいなものです。敵の陣営をも味方にできたのは、角栄に対立陣営とも手を握れる人間的な魅力があったからに他ならない」

 こうしたスケールの大きな政治家を求める国民の声が果たして永田町に届いているのか? 挫折を繰り返してもすぐに立ち直るタフネスぶり、清濁併せ呑むような人間的な臭み、大局的な角度から指針を決めていく政治的センス……。小林氏ならずとも「今の政治家は平板化していて物足りない」と嘆きたくなるはずだ。混迷を極めて閉塞状況にある令和の世だからこそ、“コンピューター付きブルドーザー”と呼ばれた角栄のパワフルな方法論が改めて求められているのかもしれない。

【あわせて読む】裏金問題で混迷を極める今だからこそ考える、田中角栄にあって今の政治家にないものとは

田中角栄

甦れ 田中角栄 人が動く、人を動かす 誰でも分かる「リーダー学」入門

著者:小林吉弥

出版社:日本ジャーナル出版

発売日:2024年4月12日

¥1,760

AUTHOR

小野田 衛


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