新谷くんだけではなく、花田さんにも似たところがありますよ。『週刊文春』編集長として一番雑誌を売っていた花田さんがテレビ局の人から誘われたことがあったそうです。「花田さん、文春で給料いくらもらっているの?」と聞かれて、いくらと答えると、「ウチの局にきてくれるなら年俸5000万円は出しますよ」と提案されたらしくて。その話は社内にパッと広まって「花田さんはテレビに行くんじゃないの?」っていう人もいた。僕は鼻で笑ってましたけどね。「みんなバカだなぁ。花田さんのことが全然わかってないよ。あんなに雑誌が好きな人がテレビに行くはずないじゃん」と。
現在の新谷くんは新設された週刊文春編集局長ですけど、相変わらず戦ってると思いますよ。新しいことをやるときには必ず抵抗勢力が現れるものだから。だけど「紙にこだわっていればこの先、食えなくなるのは明らかだ。俺の大事な部下たちが食っていけないんじゃ困るだろう」という気持ちがあるからこそデジタルに動いている。どれほどがんばっても紙の雑誌のマーケットが縮小していくのは明らか。だったらデジタルで勝負するしかない。
メディアの人間はカネの話は苦手です。雑誌を作っているほうが、カネの話をするよりずっと楽しい。でも、新谷くんはカネを稼ぐことから逃げない。本当に立派です。じゃあ、どうして稼がないといけないのか? いいクルマに乗って、うまいものを毎日食ってという話じゃない。文藝春秋という日本に必要な出版社の遺伝子を残したい、日本をよくするために正義を実現させたいという雑誌編集者としての思いがあるんです。ホントに。
▽『2016年の週刊文春』(著者:柳澤健/発行元:光文社)
列島を震撼させるスクープを連発し、日本で最も恐れられる雑誌となった『週刊文春』。そのスクープの裏側には愚直な男たちの物語があった。花田紀凱と新谷学、『週刊文春』をトップにした2人の名物編集者の話を軸に、記者と編集者たちの熱き闘いの日々を描いた痛快無比のノンフィクション。著者は『1976年のアントニオ猪木』『1984年のUWF』などで高い評価を得るノンフィクション作家・柳澤健氏。