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UPDATE|2021/04/21

SKE48高柳明音が卒業コンサートに散りばめた「12年貫き通してきたアイドル哲学」

4月10日(土)に開催された高柳明音卒業コンサート (C)2021 Zest,Inc./ AEI


 この日はステージが中央に組まれ、観客はその外周から見守るというものだった。つまり、メンバーがどちらかを向いていると、その反対側に座っている観客はメンバーの背中を見つめることになる。なので、西を向いて歌ったら、次の曲では東を向くというような工夫で貫かれていた。高柳だけではなく、舞台演出家の意志も反映されているのかもしれないが、高柳は「ハズレ席」を作りたくなかったのだろう。

 高柳は着替え以外のほとんどの時間をステージ上で過ごした。上演時間は3時間10分。そのうちの3時間弱はファンの顔が見える場所にいた。メンバーでセリフを割る曲は、高柳がセリフを独占した。ファンは高柳を観に来ているのだから、これでいい。

 高柳はこの日のMCで「伝えたいことを全部詰め込んだ」と話した。「伝えたいこと」とは何か。それはメンバーへのメッセージであり、ファンへの感謝であり、自身のアイドル哲学であり、自らの歴史であり、同期という存在のありがたみであり、グループへの愛であり……。とにかくすべてを詰め込まないと気が済まない人なのである。

 本来ならば、この卒コンは昨年3月に開催される予定だった。その数か月前に高柳を取材した際――彼女にとってはまったくの迷惑でしかないが――筆者の考えたセットリストを提案したことがある。それは、チームKIIの卒業生に勢ぞろいしてもらって、『兆し』を歌うことだった。しかし、高柳は静かに首を振った。

「今を頑張っているメンバーをステージに立たせてあげたいです」

 2曲目に歌われた『兆し』は、まさにその取材で本人が語った通りの演出となった。

 この日、OGが出演したのは、たった一人だった。松井玲奈である。2015年に卒業して以来、SKE48とは一定の距離を保っていた玲奈の登場に、日本ガイシホールはマスク越しの悲鳴が上がった。
 説明するまでもないが、玲奈は松井珠理奈とともに「W松井」の一角として、グループをけん引してきた存在だ。その人気は絶大で、彼女の卒コンは豊田スタジアムが溢れんばかりの観客で埋まった。卒業してからは女優に専念。ドラマや舞台を主戦場としている。

 卒業後も玲奈と高柳の親交は続いていた。親友と言ってもいい関係である。卒業生が登場するとすれば、玲奈だ。ファンの大半は予想していたことだろう。

 2人は『バイクとサイドカー』を歌い終わると、語り始めた。昨年、卒コンが実施されていたら、玲奈はスケジュールの都合で来場できなかったこと。この日の来場が決まったのは数日前だったこと。リハーサルなしのぶっつけ本番だったことなどを明かした。「これからも高柳明音をよろしくお願いします」と話して、レジェンドは静かに去っていった。
AUTHOR

犬飼 華


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