FOLLOW US

UPDATE|2023/01/16

「電線が教えてくれたこと」電線愛好家・石山蓮華が芸能界での“違和感”から解き放たれるまで

撮影/たむらとも

日本全国、当たり前のように存在し電気を運んでいる電線。電線好きのあまり「電線愛好家」を自称し、電線と共に生きてきた文筆家で俳優の石山蓮華が、2022年12月23日にエッセイ集『電線の恋人』(平凡社)を出版した。小学生の頃から電線の虜だった彼女にとって、電線は今や表現者としての活動に欠かせぬパートナーでもある。電線というインフラの奥深さや魅力はもちろん、20年以上になる芸能活動の傍ら感じていた気持ちも明かした。(前後編の前編)

【写真】電線とともに写る石山蓮華の撮り下ろしカット【8点】

日本の電線の総延長は、2020年の統計で約138万km、そのうち約130万㎞が地上に張り巡らされていて、約3592万本の電柱が支えている。

小学生の頃、赤羽の街で見た電線の情景にひとめぼれした石山にとっては電線の太さ細さ、線の垂れ具合や複雑な配線が織りなす景観、変圧器などの周辺機器まですべてが愛おしい。曲がりくねったり、太くクロスしたりする電線からは生き物のように一つひとつ違った「表情」すら感じ取る。機器類の細かな用途の違い、どんな流れで家庭まで電気が送られているかも今では理解できるそうだ。

「電線観察スポットとして、例えば新橋はすごく魅力的な場所です。建物が密集していて、路地に家屋・電線・電柱が入り組んでいる様を一望すると迫力すら感じますし、引込線(ひきこみせん)という電柱から家屋まで電気を引き込む配線までウォッチできます。先日行った、ビルの2階の『すみや』という小料理屋さんから、そういった光景がお酒を飲みながら観察できたのでたまりませんね。いつも人が行きかってにぎやかな街ですが、人々のエネルギーも電線が支えているように感じられてきます」

街を歩くと、自然に電線をウォッチして顔と視線が上に向いてしまうというほど。身近にある上、その場の状況に応じて敷設の方法や余った電線の巻き方まで異なるそうだ。昼と夜、背景となる街並みなどで様々な表情を見せる電線は、物言わぬ存在ながら艶っぽさすら感じると『電線の恋人』で熱く語っている。だが、その電線愛は10代から始めた芸能活動では、はじめは秘密にしていた。

「小学5年生の頃、小学館の『ちゃお』のモデルオーディションに合格したところから芸能活動が始まりました。でも特別モデルになりたかったとかテレビに出たかったとか、はっきりした意志があったのではなくて…『ちゃお』の連載マンガとのタイアップ企画で、マンガ好きだったのと賞品に魅かれて、という感じの、業界のキラキラ感に憧れて受けたようなものでした。

それからテレビや舞台など、いろいろお仕事を経験してきましたが、例えば20代になって経験したテレビのレポーターの現場では、原稿を読んだりインタビューしたりする技術だけでなく、ステレオタイプな女子を装うことも求められるようになりました。仕事は楽しいんですが、私はコンサバティブなメイクやファッションを身につけ、若々しく明るくて元気な女子でいるよりも、電線を追っかけているときの方がしっくり来てたんですね。ステレオタイプに沿って『キラキラ』してなくとも、私は女子だし…でもこれも仕事の一部だし…。しかし役を演じるのでなく、私自身として発言しているのに、イメージに沿って働くだけでいいのかな…という葛藤を大学卒業後から思うようになって、自分が世の中に何を発信していけるんだろう?ということを考え直すようになりました」
AUTHOR

高史 大宮


RECOMMENDED おすすめの記事