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UPDATE|2023/01/16

視界に入っているのに気づかれない…女優 石山蓮華が語る「一生をかけても追いきれない電線の魅力」

「電線愛好家」女優・石山蓮華 撮影/たむらとも

日本全国、当たり前のように存在し電気を運んでいる電線。電線好きのあまり「電線愛好家」を自称し、電線と共に生きてきた文筆家で女優の石山蓮華が、2022年12月23日にエッセイ集『電線の恋人』(平凡社)を出版した。小学生の頃から電線の虜だった彼女にとって、電線は今や表現者としての活動に欠かせぬパートナーでもある。電線というインフラの奥深さや魅力はもちろん、20年以上になる芸能活動の傍ら感じていた気持ちも明かした。(前後編の後編)

【写真】電線とともに写る石山蓮華の撮り下ろしカット【8点】

「電線は普段から視界に入っていても気付かれないし、多くの方は街角の電線にいちいち感動することもないでしょう(笑)。自己主張せず、でも地味に社会を支えている、そんな様子がインフラらしいんですけれど、地下を通るガスや水道と違って目に見えるところは珍しいです。だから、電線をきっかけにいろんな想像をめぐらせることができて、毎日の生活のいたるところに好奇心がわいていきます。

電柱そのものは、特別目を引くような姿でなく、広告を貼ったりできるプレーンな存在ですね。私も俳優として現場ごとに違う人物に近づけるよう努力していますが、電柱の持つプレーンさはもし俳優だったらどんな感じになるのかななどと想像してしまいます」

石山の興味はもちろんフィクションの中の電柱にも。『電線の恋人』では電線が描かれた作品――映画・マンガ・アニメ・小説・絵画に至るまで電線にフォーカスした楽しみ方を熱く解説。実はあの名作のワンシーンにも電線は活躍していたのだと気づかされる。

panpanyaさんのマンガ短編集『魚社会』の中の『はるかな旅』という作品では、電線がロープウェイのロープになってゴンドラがぶら下がっているんです。主人公がそのロープウェイに乗って旅をしていくんですけど、こんな見方もあるんだ!って想像がふくらみます。日本で育ったアーティストの皆さんも電線を見ているわけですから、1本の電線が多彩なインスピレーションのヒントになっていてもおかしくないのかなと。

街に馴染んだ存在ですから、電線を描いた作品はこれからも必ず出てきます。この冬放送されていたアニメの『チェンソーマン』でも、キャラクターが道の電柱を引き抜いて戦うシーンがありました。電線や街路の広さも、海外を舞台にした作品ならきっと違ってくるはずです。そういった違いも一見の価値がありますね。『電線鳥類学――スズメはどこに止まってる?』(三上修著、岩波科学ライブラリー)も面白いです。種によって鳥が電線に止まる高さや位置が違ったりといったことを真面目に研究していて電線ウォッチがまた面白くなっちゃいます」

電線を媒介に都市の歴史や電力インフラの仕組みまで学び始め、好奇心は尽きない。もはや電線愛好家の域を超え、「電線学」なる学問があれば研究者になれそうな程では…と思えるほど博識かつアクティブに活動してきた彼女だが、あくまでアマチュアとして、謙虚に電線の伝道者でいたい気持ちは変わらない。

「『電線学』ですか?うーん、むしろ私が入学したい方で(笑)。でも、電線にまつわるあれこれは、いつか体系化してみたいですね。科学に経済に文化芸術、その他あらゆるものとつながって今の社会をつくってくれた存在なのに、当たり前すぎて掘り下げられることは少なかったんです。私はただの愛好家でしかないんですが、それぞれの分野でしっかり研究している方々がいるので、それらの成果がバラバラなまま埋もれてしまうのはすごくもったいないことです。

知れば知るほど一生をかけても追いきれない、全てを知ることは不可能ですし、(過去の私のように)1人で研究するよりも皆さんの力を借りた方が絶対に成果も大きくなります。集合知としての電線を追い求めていきたいですね。」

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