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UPDATE|2023/01/26

高知東生の自伝的小説『土竜』刊行までの2年半のストーリー、編集者が明かす執筆の裏側

高知東生

2023年1月25日に上梓された高知東生(たかち・のぼる)の初小説集『土竜』(もぐら)。「小説宝石」掲載時から、「本当に高知東生が書いたのか?」と文芸界でも話題となっていた短編小説の単行本化である。この作品は、彼のひた隠されてきた生い立ちと半生を切り取り、物語というかたちで描き切った、覚悟の自伝的小説集である。執筆依頼から刊行までの2年半におよぶ裏側を、編集担当、光文社の吉田由香氏が綴った。

【写真】色紙に丁寧にサインを書く高知東生【11点】

2020年7月の休日。何気なくTwitterに流れてくるタイムラインを見ていたら、実母の自死についてつぶやいた、高知東生(たかち・のぼる)さんのtweetと出逢いました。静かに、それでいて熱い文章に惹かれたのです。ものすごい数のRetweetといいね、がついていました。いてもたってもいられず、すぐさま編集長にメッセージを送りました。

週明け、編集長からGOサインをもらい、高知さんの窓口となっている「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子氏に連絡をしました。すぐに高知さんご本人と会えることになり、お会いしたのが8月早々。正直、高知さんのことはあまりよく知りませんでした。俳優で薬物の事件を起こした人、という簡単な認識しかありませんでした。

ちょうど、高知さんは9月に4年間の執行猶予が明ける直前で、自叙伝『生き直す』の出版も決まっているとのことでしたが、私のなかではとにかく小説を書いてもらいたい、その一念を打ち明けました。

小説を書いてほしいという依頼に、「本を全然読んでいないし、漢字も知らないからとても無理です」と当初は頑なに固辞されたのですが、実は自死されたお母様のことを書きたいと思っていたことがあると伺い、近々出版される自叙伝では差し障りがあり書ききれなかった世界をぜひ小説に書いてみましょうよ、とひたすらプッシュしました。

その時は、高知さんの抑制のきいた文章に興味があったので、自伝的なテーマに固執せず、まずは、高知さんの書きたいものを書いてもらえればいいと思って、自由に好きなテーマで(400字)30~50枚くらいで一度書いてみてください、とお願いしました。

しかしその日は、確約することなく別れました。書けるか書けないかという前に、高知さんご自身が、書いてみようというその気になるかどうかも、その時はまだ半信半疑でした。


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