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UPDATE|2023/01/26

高知東生の自伝的小説『土竜』刊行までの2年半のストーリー、編集者が明かす執筆の裏側

高知東生


ところが、お会いして二週間後に、初小説の短編「シクラメン」が届いたのです。これにはかなり驚きました。正直、文章は荒かったです。改行や会話のルールも無視していました。が、何かとてつもなく熱くほとばしる勢いがあり、生々しい小説世界が迫ってくるような印象を受けたのです。それでいて、底なしの寂しさがひたひたと漂っています。

「シクラメン」は3か月ほどかけて、3回改稿をしました。それでも素直に、なんとかいい方向に仕上げようと努力してくださいました。また、これだけは譲れない、こだわりたい、という作家性を感じることもありました。

そして、2021年12月22日、「小説宝石」新年号に初の小説が掲載されました。それから2年、6本の短編を書き上げてくださいました。事前にプロットを相談することなく自由に書いていただいたわけですが、毎回視点を変えて、違った人間、違った時を切り取りながら、高知さんをモデルとした主人公がどこかに感じることのできる物語世界になっています。

腹を括り覚悟を決めて、自身の半生を曝け出して描こうと挑戦してくださったわけですが、普通ならば、主人公視点で時系列に描くところを、視点を変え一つ一つ違った角度から描いたことで、物語に奥行きが生まれました。

これを書くために、改めて自分のルーツを探り繙(ひもと)くたびに、新たな真実が出てくることもあったそうです。高知さんはいま、自分で自分を愛し直そうと一生懸命前に進もうとしているのかもしれません。


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