タイトルは悩みました。できれば高知さんの内面にあるものから、高知さんにつけていただきたかったので、候補案を出してもらいました。寂しさや切なさを表現したいと、美しく儚(はかな)いタイトル案がいくつも並ぶ中、「もぐら」という言葉がありました。
必死に隠してきたもの、生涯土に埋めておこうと思った話がひょっこり顔を出したという意味合いで、「もぐら」はどうかと。それなら、泥臭いイメージの「土」と、主人公の名前の「竜二」から、漢字の「土竜」にしましょうと提案しました。
主人公の名前を「竜二」にしたのは、高知さんが心酔する金子正次さん(※)の映画『竜二』へのオマージュです。「いつか金子さんのように自伝的青春群像劇を脚本にしたい」と夢みていたそうです。それが「小説というカタチで実を結ぶとは」とご自身も驚いていらっしゃいます。
※金子正次(かねこ しょうじ、1949年〜1983年)は脚本家で俳優。自主制作の初主演映画『竜二』が大ヒットしたが、映画公開期間中に33歳で死去。
短編がそろい、本を作ることになり、とにかくこだわりたかったのは、タレント本や世間を騒がせた人の奇をてらった本ではなく、純粋な文芸作品として世に出したいということでした。
とにかく手に取ってもらうために、どなたかに推薦文をお願いしたいと思い、編集長と相談し、老若男女たくさんの読者から支持されている重松清(しげまつ・きよし)さんにゲラを読んでいただきました。
ある意味”素人の作品”を大ベテランの作家さんに読んでいただくことにはかなり緊張しましたが、重松さんから有り余るお褒めの言葉をいただいたときは天にも昇る思いでした。「小説宝石」3月号では、重松さんが書評も書いてくださることになっています。
ゲラや見本を、各関係者に読んでいただいたところ、とにかく必ず出る第一声が「これ、本当に高知東生が書いたの?」です。複雑な生い立ちや特異な経験、生きる苦悩を抱えていたからだけではなく、高知さんの生まれ持った豊かな表現力が、小説という世界にうまくはまったように感じます。
高知さんのセンスに惚れ込み、高知さんの可能性を信じ、高知さんと偶然出逢えたことに感謝し、ひとりの作家の誕生を盛り上げていきたいと思います。『土竜』がたくさんの方に届くことを心から願っています。
▽『土竜(もぐら)』
著者:高知東生(たかちのぼる)
判型:四六判ハード
定価:本体1,760円(税込)
発売日:2023年1月25日(水)※流通状況により一部地域では発売日が前後する。
発売元:光文社
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