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UPDATE|2023/07/27

【何観る週末シネマ】大友克洋『童夢』をオマージュしたサイキックバトルが描く狂気『イノセンツ』

(C)2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES

この週末、何を観よう……。今週公開の作品の中から、映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、7月28日(金)より公開される『イノセンツ』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】ノルウェー製のサイキックスリラー『イノセンツ』の場面写真

〇ストーリー
緑豊かな郊外の団地に引っ越してきた9歳の少女イーダ、自閉症で口のきけない姉のアナが、同じ団地に暮らすベン、アイシャと親しくなる。ベンは手で触れることなく小さな物体を動かせる念動力、アイシャは互いに離れていてもアナと感情、思考を共有できる不思議な能力を秘めていた。夏休み中の4人は大人の目が届かないところで、魔法のようなサイキック・パワーの強度を高めていく。しかし、遊びだった時間は次第にエスカレートし、取り返しのつかない狂気となり<衝撃の夏休み>に姿を変えていく…… 。

〇おすすめポイント
団地を舞台に子どもたちがサイキック・バトルを繰り広げるという設定を聞くと、大友克洋『童夢』を連想するかもしれないが、今作はまさに『童夢』にオマージュを捧げた作品となっている。しかしあくまで下敷き程度であり、オリジナル要素の方が強い。

『クロニクル』(2012)や日本の『メイヘムガールズ』(2022)のように、感受性の強い子どもたちの視点からヒーローとヴィランの分かれ目を描いていて、能力を持った者、持ってしまった者が、どういった行動に出るのかと同時に、親の子に対する”見守る”という義務を描いた作品だ。

イーダの家族が越してきた団地は、子どもも大人もたくさんいて、比較的人の目が多いというのに、どこかに静けさがある。

他人に興味がなくなってしまった現代社会にとっては、子どもたちの反れてしまった道に気づいて、修正することがそもそも困難だったりして、それは実の親であっても同じ。

イーダの親も、親がずっと監視できる環境生活にありながら、自閉症の姉アナの面倒を日中はイーダにみさせており、経済的にもあまり余裕がない。

生活に余裕があるからといって、子どもの変化に気づけるかというと、そうでもないのだが、子どもの教育には、ある程度の経済と時間、心の余裕が必要だと言われているようにも感じる。

今作の中では、子どもたちが手にするのは特殊能力というファンタジーになっているだけに、日常生活にリンクしないようにも思えるが、それをドラッグや銃などと置き換えると、そうとも限らない。あくまで特殊能力はメタファーであって、身近に起こりうることを描いているようにも感じられるのだ。

〇作品情報
監督・脚本:エスキル・フォクト
出演:ラーケル・レノーラ・フレットゥム、アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ、ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム、サム・アシュラフ、エレン・ドリト・ピーターセン、モーテン・シュバラほか
2021年/ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデン/ノルウェー語カラー/原題:De uskyldige/英題:THE INNOCENTS
日本語字幕:中沢志乃
提供:松竹、ロングライド
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/innocents

(C)2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES

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