この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、10月13日(金)より公開されている『シック・オブ・マイセルフ』。気になった方はぜひ劇場へ。
【写真】『シック・オブ・マイセルフ』場面写真〇ストーリー
シグネの人生は行き詰まっていた。長年、競争関係にあった恋人のトマスがアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは、自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出す。薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき……。
〇おすすめポイント
ずっと自分が世間から評価されてこなかったこと、存在価値を見出されてこなかったことに不満をもって何となく日々を過ごしているシグネ。だからといって、世間から注目されるような何か飛びぬけた才能があるわけではない。
一方で恋人のトマスは、アーティストとして注目され始め、仕事の依頼や雑誌の取材などが舞い込んでくることになり、そこに嫉妬心も重なりはじめる。
ただでさえトマスの添え物のように扱われていたシグネは、さらに自分の存在感が薄くなってしまうのではないかと不安を抱えることになるが、そんなときに気づいてしまう……。
病気になったふりをすれば、そして実際に病気になってしまえば周りが心配し、世間からも注目される可能性が高まるということに。
自ら副作用が問題視されているロシアの薬に手を出したことで案の定、肌がボロボロになっていくが、友人たちはシグネを心配し寄り添ってくるし、ニュースとして取り上げられることによって、外見の崩壊よりも快感の方が勝ってしまっていき、それは心配や同情によるものだというのに、自分自信の本質が認められているかのように錯覚していき、またその感覚が快感となっていく。
それは、どんどんエスカレートしていくが、いよいよ本当に命の危険を感じるほどの地点にまで行き着いてしまう。
注目されることと命を常に天稟にかけるようなシグネの行動は、あくまでブラックユーモアとして描かれてはいるし、極端なほどに誇張はされているものの、最終的に笑えない展開でホラーに近いものを感じるかもしれない。
承認欲求への依存度が高い現代社会に対する痛烈な批判と皮肉が入り混じった強烈な作品。
恐らく監督のクリストファー・ボルグリは、インフルエンサーが嫌いなのだろう……。
実は世間の注目を惹くために病気を利用するという作品はいくつかある。有名なところでいうと実際のディー・ディー・ブランチャード殺害事件をベースとして描いたドラマ『見せかけの日々』や同事件を映画化した『死ぬほどあなたを愛してる』(2019)。下敷きとした作品としては、『マー -サイコパスの狂気の地下室-』(2019)や『RUN/ラン』(2020)なども有名だ。
承認欲求が行き過ぎた結果という意味では、『スプリー』(2020)や心配される快感に異常なほどに執着してしまう男を描いた『PITY ある不幸な男』(2018)など、類似した作品も多くあったりするように、自分自信を発信できる機会が逆に増えすぎている現代社会だからこそのテーマともいえるが、どれも良い結末になったことはない。
(C) Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022
〇作品情報
脚本・監督:クリストファー・ボルグリ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ 、エイリック・セザー、ファニー・ベイガーほか
2022年|ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス|97分 |COLOR|ノルウェー語・英語|原題:SYK PIKE|字幕翻訳:平井かおり
【映倫区分:PG-12】
配給:クロックワークス
公式サイトURL:https://klockworx-v.com/sickofmyself/
2023年10月13日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほかロードショー
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