──そうした気の休まらない日々の中、楽しかったことは?
莉乃 仕込みの時代は、お稽古事の時間と一週間に一度だけ髪を解く日以外は外出できなかったので、外に出る瞬間が楽しかったです。普段から自分が食べたいものは食べられないので、外に出たら必ずコンビニに行って、スイーツやカップ麺と、とにかく今自分が食べたいものを大量に買っていました。この時だけは年相応の自分に戻っていたと思います。あと、漫画好きの姉さんと仲良くなり、寝る前に一緒に好きな漫画について話しているのが心休まる一瞬でした。
──話に聞くには、携帯電話は所持してはいけないとか。思春期の時分で世間と離れた生活に、色々心細くなったりは?
莉乃 これは置屋さんによってまちまちだと思いますが、私は持っていませんでした。一般的なニュースはお客さんからお話を聞いたり、姉さんがテレビをつけているのを横で見ていたのである程度は知っていましたが、世間では何が流行っているかは全く知りませんでした。とはいえ買い物の際には、お母さんと連絡する用の携帯を持たせてもらっていて、そこでこっそりインスタを見ていたんです(笑)。そこで友だちが髪の毛を染めたり、車を運転する姿を見て、「私、一人世間から取り残されているな」と、少し寂しく感じていましたね。
──20歳を迎え芸妓の道へと進まず地元に戻ると選択されましたが、次はどのような道を歩もうと?
莉乃 とりあえず大検は取得していたので、東京の大学に行こうとバイトを始めました。ただ正直一般社会で必要な経験も知識もない上に、何を学ぶにも興味が湧かないため、考えなしにただ大学に通うだけなら時間をムダにしてしまうかなと。そんな私を見かねた親が都内の美容系専門学校を勧めてくれて、そこに通うことにしました。ただ、自主的に選んだものではないので、結局興味が湧かないまま全く身に付きませんでした(苦笑)。そんなとき、在学中に友人を介して今の事務所にスカウトしていただいたんです。
その瞬間は、「どういうこと!? これは詐欺じゃない?」って不安でした(笑)。ただ、本当に夢がないまま歳を重ねていく不安を感じていたタイミングだったので、一つの嬉しいご縁をいただいたなとお話を受けました。
──莉乃という名前はどのような意味を込めて付けられたのでしょう?
莉乃 事務所の偉い方々が、「古風な名前を」と色々と提案してくださって。相談しながら、一番ステキだなと思う名前を選びました。
──さて、芸能の世界に足を踏み入れたことで、きっと目標や夢が芽生え始めていると思います。この先どういう時間をこの世界で歩めていきたいですか?
莉乃 こうして、普通では体験できないことをさせてもらっている以上、今まで以上に知名度をつけて、多くの方に見ていただけるようグラビアで行けるところまで行ってみたいという目標ができました。あと、今事務所の方々と伝統芸能に関したお仕事に挑戦してみるのはどうだろう?という話をしていまして。今まで培ってきたことを、活かせたらステキだなと考えています。
──それはいいですね! お座敷での経験が活きてくると。
莉乃 それが、実のところ歌も踊りも苦手で、正直に今のところ自分を最大限に発揮できるものは……ありません(笑)。私にしかない特技・特色を、この先のあらゆる活動を通じて見つけられたらいいなと考えています。何より芸能界という初めての世界を自分の目で見て触れて学んで、この先の未来を自分で作っていけたらいいなと思っています。
(取材・文/田口俊輔)