FOLLOW US

UPDATE|2019/12/08

中川翔子、今だからこそ振り返る亡き父のこと「初めてのライブまでずっと嫌いだった」

撮影/松山勇樹


ディズニーの映画『リメンバー・ミー』のように、肉体がなくなっても時を超えて、気持ちって一緒にいるんだろうなって思うんです。それで、今回見つかった父の書いた歌詞の断片を見ているうちに、何かできないかなと思ったんです。その頃あたりにアルバムの話が出てきたので、じゃあ1曲作りたいなと。それでバラバラだった歌詞を一つにまとめて、私の歌詞も加えたんです。

歌詞にある「この思いよ 風にのれ」という言葉は父の墓碑にもなっていて、亡くなる前に、色紙に書いて大切な人に贈っていたんです。その直筆も出てきて、子どもの頃から聞いていた言葉だけど、何かメロディーを付けられないかなと。それで二十代で今を代表するクリエイターのウォルピスカーターさんにメロディーを付けてもらったら、ものすごく大好きな曲になりました。

この曲に出会えただけでも、5年間待った甲斐があったなって思います。この詞を父が書いてから30年ぐらい経っていると思うんですけど、その言葉が時を超えて、私の声で風に乗って、いろんな方に届く。さらに次の世代だったり、いつかは自分の子どもだったりに、この曲に乗せた思いを届けたいですし、ぜひ大事な人を思い浮かべて聴いてほしいですね。

父の遺した歌詞も写真も見きれてないぐらいいっぱいあるんです。今の小さな夢として、絵を描くことは一生ハマれる好きなことなので、いつか父の絵と一緒に個展をやれたらいいなって思います。それにはやっぱりデジタルじゃなくて、原画として残るものを、もっと描き溜めたいですね。

実は初めて自分でライブをするまで、ずっと父のことが嫌いだったんです。母一人で育ててくれたというのもあるんですけど、思春期のこじらせ時期に「私がこんな目に遭うのは父のせいだ」って、この世にいないから不満をぶつけていたんでしょうね。

あと本当かウソか分からない父の噂をネットで読んで、当時はネット黎明期というのもあって全部本当なんだって思ってショックを受けたんです。それで父とは関係ないって思いながらお仕事をしていたんですけど、初めてのライブが偶然、父が歌ったことのある場所で。ステージの光を見ていたら、氷が溶けだしたのが分かったんです。

会場は渋谷公会堂で、父はそこでライブできたのがうれしくて、テンションが上がって1曲目で客席にダイブをしたんです。それで固い椅子にぶつかって肋骨を骨折して病院に運ばれ、ライブが中止になったらしいです(笑)。

今は父のいろんなことが血の中に入っていて、そのおかげで歌い続けたいって夢に繋がっているので感謝しています。父が、もしも空の上で『ある日どこかで』を聴いてくれたらいいなって思います。この曲は天国にいる、もう亡くなってしまった人からの愛のメッセージの歌ですから。

中川翔子
▽中川翔子5thアルバム『RGB 〜True Color〜』
12月4日に発売された、しょこたん約5年ぶり5枚目のオリジナルアルバム。アニメ『ポケットモンスターXY』エンディングテーマ『ドリドリ』など、この5年で携わってきた多数のタイアップ楽曲が収録されており、細野晴臣や小林幸子、ヒャダインやでんぱ組.inc 、YouTuberのスカイピース、ボカロPのみきとPなど、様々なアーティストやクリエイターがコラボレーションで参加している。
AUTHOR

猪口 貴裕


RECOMMENDED おすすめの記事