──山口女流二段は普及の新たな形としてYouTubeチャンネルを開設するなど、ネットやSNSをいち早く取り入れていると思います。山口 いや、そうでもなかったですよ。YouTubeもやるかどうか2年ほど悩みました。スポンサーさん絡みという現実的なところでもあったんですけど……(笑)。でも、いろいろなネット番組がありますが、YouTubeしか観ないという方も多いと思うんです。そんな人たちに将棋に興味を持ってもらう入り口になればと思い、始めました。
──チャンネルでは将棋ウォーズ(日本将棋連盟公認のオンライン将棋アプリ)の実況や自戦を解説する動画などを公開されています。山口 あれは解説と言うよりも、頭の中をただしゃべっているだけに近いですね(笑)。でもこだわりとしては、初段向けの本で「こうすれば良くなる」と書いてあっても実戦では上手くいかないことが多いじゃないですか。そういうのが嫌で、棋譜に関してはアマ5~6段でも使える内容にしています。
──ご自宅でやられていて、1人で全部やるのは大変ではないですか?山口 動画編集は他の人にお願いしていますが、機材の準備をしたり、台本を書くのが大変ですね。でもコロナ禍で、今まで開催されていた将棋イベントや大会がなくなってしまったので、その代わりになればと……。あとは何年後か分かりませんが、コロナが収束したときには明らかに将棋の人気は落ちるだろうと思ったんですよね。
──どうしてですか?山口 イベントや大会など、今までやっていたことができない期間があったので。数年後に困るなら、今から何かしなくてはいけない、女流棋士は何のためにいるんだろうと真剣に考えました。もちろん対局に勝つことは一番大事で、そのために私たち女流棋士は日々将棋の研鑽を積んでいるですが、私はその将棋を人に見てもらって楽しんでもらうためにやっていると思っています。ファンのいない世界線では将棋はできない。コロナ禍で何か新しいことができないかと思ったのが動画配信だったんです。
──一方で外出自粛期間があり家にいる時間が増えた方や、藤井二冠の活躍もあり、ここ最近で将棋ファンが増えたのではないでしょうか。実感はありますか?山口 ありますね。やはり藤井二冠のご活躍が大きいなあと。将棋の世界に天才がいるんだということ、その天才のすごさを体感したいというファンが増えたんだと思います。藤井二冠は将棋がかっこいいですよね。それを伝えるお手伝いができればと考えています。
──山口女流二段としては、今後どこの層に将棋ファンが増えてほしいですか?山口 私は特に20代~30代の将棋を知らなかった女性ですね。将棋って、ドラクエとかと同じくらい面白いゲームなので、プロはもちろん勝つために勉強していますけど、ファンの人はゲームで遊ぶ感覚で初めてみてもいいと思うんですよね。
──ゲームと言えば、山口女流二段はゲーム関連のお仕事も多いですよね。山口 そうですね。真面目な話になってしまうのですが、その理由として、女流棋士の仕事の幅を広げられればいいなと考えているんです。収入の面でも外部のお仕事は大事だし、私個人というより「女流棋士はこういう仕事もできます」というアピールに繋がればいいなと。
──女流棋士や棋界全体のことを考えられているんですね。個人的にゲーム好きということではなく?山口 みんなにはそう思われているかもしれません(笑)。ただ、個人的には将棋に強くなれる時期があると思うので、私も今29歳になったことですし、そろそろ対局に集中してもいいのかなと思っています。20代は将棋の面白さを伝えたい、将棋界を盛り上げたい、と女流棋士の地位向上を考えていたんですが、そろそろ自分の将棋のために生きようかなと。
>>後編に続く
(取材・文/中村佳太)
▽山口恵梨子(やまぐち・えりこ)1991年10月12日生まれ、鳥取県出身。堀口弘治七段門下。日本将棋連盟所属の女流二段。激しい攻め将棋の気風から“攻める大和撫子”の異名を持つ。
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