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UPDATE|2022/05/15

脳科学者・中野信子が語る“不倫”が大バッシングされる理由「個人が社会正義を行う構造」

中野信子 撮影/松山勇樹



──不倫に対する羨望もあるのでしょうか。

中野 羨ましいよりも、もっと暗いものというか、あの人たちだけズルをしているというような視線ですかね。もともと得をしている人たちが、ルールを破る形で、さらに自己の利益だけを最大化しようとしている行動のようにおそらく捉えられていて、それを平準化しないといけないという欲動に駆られているという構造があると思います。

社会正義を行うということは、それ自体が快感によってプロモートされています。この快感を抽出してエンタメ化するという構造がメディアにはありますから、それを味わうために、多くの人は糾弾するという行動を取るんだろうと思います。いわば祝祭ですね。

──でも大抵の人は芸能人の不倫報道を見ても、「不倫してたんだ」で終わりますよね。

中野 まあ、どうでもいいですよね。私もバッシングする気持ちはよく分からないです(笑)。

──中野さんはワイドショーなどのコメンテーターもやられているので、不倫についてコメントすることもあるかと思います。コメントする上で気を付けていることはありますか?

中野 あまり個人の感情で言わないようにしていますが、そうすると「中野は不倫肯定派なのか?」とざわつかれます。あと不倫についてコメントするとき、「そもそも人間は一夫一婦型にできてないんですよね」ということを言うと、不思議なことに男の人がざわつくというのがあって、みなさん喜ぶんですよね。

──『不倫と正義』で中野さんは「一夫一妻型の種って哺乳類では3~5%とされているんですね。そもそも圧倒的に少数派なんです」「人間は生物としては一夫一妻型ではないんです。一定の発情期もないから、いつでもパートナーを探すことができる。そして、同時に複数のパートナーを持つことが可能な脳を持っている。一夫一妻型の種ではそれができません」とおっしゃっています。中野さんの発言に喜ぶ方は、その恩恵に自分が授かれると思っているということですかね(笑)。

中野 そうなんです。「なんで喜ぶんだろう?」と不思議なんですけど……。一夫多妻というのは単純な算数で、一夫多妻な人と一夫ゼロ妻の人が「多」の分だけできる訳ですよね。一夫五妻だとしたら、5人は一夫ゼロ妻ができるのに、どうして自分は一夫ゼロ妻側に行くと思わないんだろう。

そんなにモテる自信があるのかと驚くんですが、一夫一妻制は、ほぼ男性のためにある制度です。男性格差を生まないためにあるのに、一夫多妻って言うと喜ぶのは「ん?」ってなるんですよね。

【後編はこちら】脳科学者・中野信子が語る“不倫”願望の男女差「心理状態の差異は本質的にはない」
AUTHOR

猪口 貴裕


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