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UPDATE|2022/10/11

高橋伴明監督がコロナ禍の社会的孤立&貧困を映画に「辛抱してきた怒りを約20年ぶりに解放した」

高橋伴明監督

先行きの見えないコロナ禍の閉塞感に覆われた2020年11月。幡ヶ谷のバス停で寝泊まりするホームレスの女性が、見知らぬ男に殺されてしまう事件が起きた。犯行の動機は「バス停に居座っていたからどいてほしかった」という理不尽極まりないもので、社会を震撼させたと同時に、高齢者の社会的孤立と貧困の実態をあぶりだした。この事件を材に取った映画『夜明けまでバス停で』(10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他全国順次公開)を撮ったのは、1972年にピンク映画『婦女暴行脱走犯』で監督デビュー以来、『TATTOO〈刺青〉あり』(1982)、『愛の新世界』(1994)、『光の雨』(2001)、『痛くない死に方』(2020)など、数多くの話題作・問題作を世に送り出し、今年で監督歴50周年を迎えた高橋伴明監督だ。

【写真】映画『夜明けまでバス停で』場面写真

最初、映画制作会社から『夜明けまでバス停で』の企画を聞いた時は、あまり乗り気ではなかったという。「おそらく犯人の動機は薄っぺらいものだろうし、殺される原因は見つけ出しにくいだろうなと思った。NHKの番組(※2021年5月1日放送の『事件の涙』)でも取り上げられていたし、それで十分じゃないのって」

それでも映画化するとしたら、どうすればいいのか。考えた上に思いついたのが、事件をそのまま描かない方法だった。「亡くなった被害者をモデルにしないことで、オリジナルの脚本で、架空の主人公に、自分が長い間、辛抱してきた怒りみたいなものの体現者になってもらえるかもしれないという気持ちになれたんです」

脚本を担当したのは、俳優としてのキャリアもある梶原阿貴。

「人から紹介してもらった梶原さんに第一稿を書いてもらったんだけど、大人しくまとまっていたんだ。もしかしたら俺に遠慮しているのかなと。主人公にある計画を持ち掛ける柄本明が演じたバクダンは、いまだに革命を夢見ているホームレスだけど、『こういう奴、近くにいるじゃん。それを書けばいいんだよ』とプロデューサーに話していた時に、俺の中でスイッチが入った。そこから自分でもシナリオを書き始めて、梶原さんとキャッチボールをして。その過程が面白かった。ここ最近は自分で脚本を書くことが多かったから新鮮だったんだよね」

映画のエンドロールでは、「こんな世の中おかしい」ということを視覚的に表現したカットが盛り込まれているが、シナリオの段階で、そのカットは描かれていなかった。

「もちろん自分の中で、そのカットを入れる計画はしていたけど、梶原さんにも制作側にも最後まで黙っていたんだ。ラッシュの段階で反対されたらしょうがないけど、観る前からダメって言われると、気分も萎えてしまうからね。だからギリギリまで黙って、CG屋さんとだけは打ち合わせを進めていたんだ」

AUTHOR

猪口 貴裕


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