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UPDATE|2019/03/17

モーニング娘。飯田圭織「タンポポがいっぱいだよ」2ちゃんねるが生んだ奇跡


発端は2002年7月末、新作映画の記者会見にあわせて発表されたハロー!プロジェクトの“大規模リニューアル”だった。

「後藤真希と保田圭がモーニング娘。から卒業」
「既存ユニットの再編成」
「新たなグループの誕生」

それまで順調に活動していたアイドル集団の大変革は、大半のファンにとってまさに寝耳に水だったが、中でも衝撃が走ったのはモーニング娘。の派生ユニットであるタンポポ(飯田圭織、矢口真里、石川梨華、加護亜依)のメンバー入れ替えだった。同じく人気を博していた派生ユニットのプッチモニが、後藤と保田というメンバー2人の卒業にあわせて大きく動かざるを得なかったのとは対照的に、タンポポにはそういった事情がないまま、石川梨華を残して3人のメンバーが大刷新されることになった。

モーニング娘。としてはなかなか前列に立てないメンバーが「思い入れが強い」(矢口)(※2) 「命に代えても惜しくないくらい好き」 (飯田)(※3)と常々口にしていたユニットへの思いと、それに相反する現実に、激しく動揺するファンたち。しかしそれでも皆の愛した風景が大きく変わる節目はすぐにやってきた。2002年9月23日、横浜アリーナで行われたモーニング娘。の全国ツアー「LOVE IS ALIVE! 2002夏」最終公演である。

この日の目玉はなんといってもエース・後藤真希のモーニング娘。卒業であり、その最後の姿を目に焼き付けようと、用意された1万5千枚のチケットはすぐに売り切れた。そして始まる本番。異様な熱気の中、途中で揃いの衣装に着替えて出番を待つ4人の姿があった。現メンバーでのラストステージを迎えた、タンポポの面々である。

「大人にならないといけない」(矢口)(※2)

沢山のファンが見たいのも、マスコミが追いかけるのも、その日は誰がどう見ても後藤。自分たちが脇役であることを重々承知していたからこそ、4人は最長5年に渡ったユニット活動への溢れる思いを抱きつつも、いつものようにさりげなく、コンサートの1コーナーにすぎないユニットメドレーのステージに立った。しかし歌おうと顔を上げた4人が次の瞬間見たのは、いつもとは全く違う客席の光景だった。

「タンポポがいっぱいだよ!」

飯田圭織が我慢できずに叫ぶ。

スポットライトの向こうの客席は一瞬にして、タンポポの花を想起させる黄色いサイリウムの光で埋め尽くされていた。

この“タンポポ畑の卒業式”が生まれたのも、実はネットがきっかけである。

「タンポポのとき一面黄色にしてえなあ」

1人の名無しファンが2ちゃんねるにこう書きこんだのはライブの一週間前。しかし顔も知らぬ者同士がどこまでその思いを共有できるのか、もっとも懐疑的だったのも当の本人たちで、直後にはこんな言葉も続いている。

「客席が黄色で埋まれば感動物だけど、所詮思いつきなので無理」

だがたった17文字で綴られたファンの思いは、やがてネットを見ていた同じファンの間で次第に増幅し、結果としてそれまで例のなかった異例の手作りセレモニーを見事叶えることになった。

その可能性の大きさよりも顔を合わせない懐疑心が先行し、まだインターネットがポジティブに語られることが少なかった時代。しかし、名無しのファンたちの想いを増幅させ、横浜アリーナに夢の景色を花開かせたものこそ、まだSNS も知らない、産声をあげたばかりのネットの力だったのだ。


モーニング娘。14枚目のシングル『そうだ! We’re ALIVE』(2002年2月20日発売)

※1 ナタリー「9〜11期メンバー&つんく♂が語る『2013年のモーニング娘。』」
※2 『おいら-MARI YAGUCHI FIRST ESSAY』(矢口真里/ワニブックス刊)
※3 『うたばん』(TBS/2001年11月22日放送)
AUTHOR

乗田 綾子


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