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UPDATE|2023/01/07

山口恵梨子女流二段が語る、藤井聡太王将VS羽生善治九段「棋士とは何か将棋の強さとは何かが問われる」

山口恵梨子 撮影/松山勇樹

藤井聡太五冠と羽生善治九段という、将棋ファンならずとも名前を知る天才棋士同士のタイトル戦が1月8日から開幕する。この歴史的一戦を見届けたい将棋初心者に向けて、『将棋フォーカス』(NHK)でMCを務めるほか自身のYouTubeチャンネルで将棋普及に力を入れる山口恵梨子女流二段に、見どころや注目ポイントを聞いた。

【写真5点】“攻める大和撫子”山口女流二段

──ALSOK杯王将戦の七番勝負が1月8日からスタートします。現在五冠を保持する藤井聡太王将(竜王、王位、叡王、棋聖)と、タイトル通算獲得数99期の羽生善治九段の対局という、時代を代表する天才同士の戦いということで世間の注目が集まっています。

山口 “平成の天才”と“令和の天才”がぶつかり合うわけですからね。ただ、一口に天才とは言っても、お二方は将棋に対する考え方や、将棋に求めているもの、目指しているものが違うので、そういった意味でどういう将棋がぶつかり合うのか。私もすごく楽しみです。

──具体的に藤井五冠と羽生九段の将棋はどこが違うのでしょうか?

山口 まずAIソフトへのアプローチの仕方でしょうか。将棋界は今、AIソフトを使用した研究が全盛になっていまして、AIをどう使うかは棋士によって違うんです。藤井先生は「最善手を追い求めた先に何があるのか?」という「将棋の強さ」を追求されている印象です。羽生先生ももちろんそうなんですが、一方で棋士全員がAIソフトの指し手を真似したら、棋士の個性がなくなってしまうことを羽生先生は危惧されていて……。そういう意味で羽生先生は「自分の将棋」というものを追求されているのかなと。羽生先生は平成の時代から、将棋の最善手を作ってきた方なので、若手の棋士とはAIソフトに対する考え方が違うと思います。

──藤井五冠は年齢的にAIが当たり前に存在する世代として将棋を学ばれてきたと思うのですが、一方の羽生九段はAIのない時代から、自分の頭脳で将棋の最善手を追求されてきたわけですね。

山口 そうですね。羽生先生は講演などでも「棋士の個性」という言葉を何度も口に出されていて、「棋士とは何か?」というのを大切にされてきた方。そういう信念みたいなものは、将棋に出るんですよね。

──なるほど、具体的にはどういった例がありますか?

山口 今はAIソフト同士の対局が行われていて、AI同士だと先手番の「角換わり」という戦法が高い勝率を上げています。なので、AI重視で研究をされている棋士は先手角換わりの戦法を採用する人が多い印象です。一方で、羽生先生のような自分の個性を求める棋士は、AIソフトを使うにしろ使わないにしろ、振り飛車などいろいろな戦型を試されている感じですね。

──AIが将棋の戦法に影響を与えているわけですね。

山口 今回、羽生先生の王将戦の挑戦権獲得の原動力として「横歩取り」という戦型があります。後手番の横歩取りでここまで勝ち上がってきた棋士は佐藤天彦九段くらいで、ほとんどいなくて。なので、将棋ファンの間では、王将戦で藤井先生に羽生先生が横歩取りで挑戦するのでは?という予想をする人が多くいますね。

CREDIT

取材・文/中村佳太 撮影/松山勇樹


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