2018年から2019年にかけて出版不況や、東京五輪開催決定によってコンビニから成人雑誌が撤退した。現在公開中の映画『グッドバイ・バッドマガジンズ』は、そんな知られざる性的メディアの裏側で従事する者の苦悩や問題点を多数の関係者から取材し、脚本に落とし込んだ業界内幕エンターテイメントだ。
【写真】『グッドバイ・バッドマガジンズ』場面写真テレビやネットをはじめ、世間でコンプライアンスが騒がれるようになって10年以上が経った昨今。当たり前のようにあったものがいつしか無くなっている、そんなことはないだろうか。
人権や個人に配慮されるようになったという側面においては良い時代となったのかもしれないが、一方で表現の自由という面では窮屈な時代になってしまった。時代の変化、アップデートによって失われてしまうものもあるのだ。そこで忘れてはならないのは、失われたものにも関わっていた人々がいたということだ。
2018年から2019年にかけて、外国人観光客やファミリー層などに対して外観を損なうという配慮や、そもそもの販売不振なども加わり、大手コンビニチェーンが次々と成人男性向け雑誌、いわゆるエロ雑誌の取り扱いを中止した。
そんなエロ雑誌の編集部を題材とした本作。当然、エロ雑誌にも作り手が多くいたわけで、そこには苦労や葛藤があった。失われつつある文化にも多くのドラマが存在しているのだ。
エロ雑誌においては、読者に求められているのはグラビアや付録DVD。どれほど真面目で社会派な文章を掲載したところで誰の目にも触れられないことがほとんどという状態だ。スポンサー主義やデジタル化が進んでいる現状は他の出版業界と同様で、エロ雑誌だからといって自由な表現ができるわけでもない。ある意味、逆に規制が多い媒体なのかもしれない。
そんな極端な環境下の中で、やりがいや自分らしさをどうやって見出し、表現していけるのか…。そんな葛藤は、どんな仕事にも共通するものではないだろか。
本作はエロ雑誌の制作現場を扱っているし、ジャンル的に特殊性も多少あるため、未知の世界に感じるかもしれない。しかし、描かれていることは出版界だけに留まらず、常に市場を意識し、生き残りをかけた競争に向き合わなければならない社会で働く人々全てに共通する物語であり、多くの共感点があるはずだ。
加えて、人はなぜエロを求めるのかを真面目に哲学的な側面からもアプローチしている点も、なかなか斬新な切り口。自分とは関係ないアンダーグラウンドな世界だと思って観ないのは、非常にもったいない作品だ。
【ストーリー】
オシャレなサブカル雑誌が大好きな詩織は念願かなって都内の出版社に就職。しかし、そこはオシャレのカケラもないどころか卑猥な写真と猥雑な言葉が飛び交う男性向け成人雑誌の編集部だった。理想とかけ離れた職場に最初こそテンションがダダ下がりの詩織だったが、女性編集長の澤木や女性ライターのハルなど、女性が「エロ」を追求している姿に刺激を受け成人雑誌に対して興味を持ち始める。しかし、そんな中、編集部で取り扱っていた雑誌で「とんでもないミス」が発覚。それを境に共に激務を戦ってきた同僚の編集者たちが次々と退社。オーバーワークで心も体も疲弊しきった詩織だったが、さらに追い打ちをかけるように衝撃的な事実を知ることになる……
【クレジット】
監督・脚本・編集:横山翔一
脚本:山本健介、宮嶋信光
出演 :杏花、ヤマダユウスケ、架乃ゆら、西洋亮、山岸拓生、菊池豪、岩井七世、西尾友樹、タカハシシンノスケ、長野こうへい、カトウシンスケほか
挿入歌:「資本主義Workers」Marukido
主題歌:「パレード」ナギサワカリン
制作:ふくよか舎
製作:ピークサイド
配給:日活
公式サイト: https://www.gbbm-movie.com/
(C)ふくよか舎/ピークサイド
2023年1月20日(金)より全国順次公開中!!
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